風鈴(バトン)


ちりん、と、高く澄んだ音が聞こえた。
 僕の傍らで丸まっていた黒猫の伽(とぎ)が首をもたげ、凛とした佇まいで音の出所を見つめる。ふたつの金色の猫目石が辿るのは、暑さに薄く汗ばんだ肌に感じる微風の足取りのさかしま。
 畳の向こう、板張りの縁側。風に揺れる簾と、わずかに覗く入道雲の蒼穹。畳には黒々とした簾の影。簾の目の隙間を通り過ぎて煌く鮮烈な陽光と、庭でそよぐ下草の草いきれ。
 電気をつけるかどうか悩むような仄暗さが満ちるその和室にて、僕は卓の上に夏休みの宿題を広げ、そんなものそっちのけで居眠りをしてしまっていた。
肌を撫でる大気はまろやかに潤んでいて生ぬるい。きっと夕立が来るのだろう。
 その証拠に、強くなってきた風に縁側に吊るされている風鈴が涼やかな音を響かせた。
 もう、夏休みも終わる。
 卓の上に置かれている麦茶の入ったコップに浮いた水滴が自らのその重みで伝い落ちて。
 あくびをする伽を眺めていた僕の耳に、ちりん、と、風の道筋を辿る音が届いた。

(風鈴)

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