sideーA/01


sideーA

 僕が彼のことを知ったときのことを話そう。そう長くはならないはずだ。
 それは唐突でなんてことはない一日の出来事だった。街角ですれ違いざま僕は誰かとぶつかった。そのとき取りこぼした林檎を拾ってくれたのが彼だった。彼は人の良い笑みを浮かべ、傷ついた林檎を僕に手渡した。気をつけて、と一言ぐらい言い添えたかもしれない。僕は彼の瞳がきらきらとまぶしくて目を奪われ、初めての接触でどんな会話をしたかも覚えていない。まるで恋の始まりのような出会いだ。僕はぼんやりと受け取った林檎を紙袋に入れ直し、もう一度彼の顔をみた。その視線に気付いたのか彼は少し不思議そうな顔をして首をかしげたが、すっと僕の横を通り抜けていった。落とした林檎は傷口からすぐに痛み出し、甘ったるいにおいだけを残して腐っていった。そうしてようやくひからびたそれをダストシュートに捨てた頃、もう一度彼にあった。僕はそのときには左目の視力をなくしていて、先細る時間について思いを馳せていた。よろけるように歩く僕に、彼は手をさしのべた。

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