葡萄04





数日後のよく晴れた日、中庭の茂みが揺れた。そこは、どこからか迷いこんだ葡萄が奔放に蔦を絡めている、中庭の片隅だった。
窓から中庭を眺めていた私は目をしばたたく。狐か鳥か、狼か。いったい何が遊びにきたのかと首をかしげていると、緑の茂みから、伸びやかな腕がつきだした。どうやら、腕の持ち主は、何かをつかもうと、何度も跳ねているらしい。
寝台に立て掛けてあった杖を手にすると、私は石の回廊へと歩み出した。
ゆっくりとしか進めないので、陽光を浴びながら、のんびりと、私は歩を進める。
中庭の隅にまで辿り着いた私は、回廊の柱に背を預け、諦めないで跳ね続けていたらしいちいさな手を眺めた。石柱と樹木をつなぐように、葡萄の蔓が網の目となって空を区切っている。蔓の平面とほぼ同じ高さに目線のある私は、壁を抜けてきたらしい侵入者が埋もれている茂みを見下ろすこととなった。
渾身の跳躍をみせた少年と、目が合う。
今までになく高く跳ねた少年の指先は、野生であるがゆえに小振りな葡萄の房に届いていたけれど、もぎとることなく落下した。驚愕が硬直を招いたのか、茂みに半分うもれたまま、少年はこちらを見上げている。まばたきの少ない碧の目は、素直そうな印象そのままに、丸くなっていた。
はてさて、この子羊をどうしたものか。
茫然と私を仰いでいる少年に微笑みかけてみる。反応がないので、手近な葡萄の一房を指さしてみた。


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