「猛さーん!おはようございますー!朝ですよー!!」 もぞもぞ布団に丸まる猛さんと時計を見比べて、ため息をひとつ。有里ちゃん、いつも大変だなあ。ああ、だから過労で倒れたのかも。今度美味いもの食べさせたげよう 。ついでに後藤も。 「んんーあと1時間…」 「長いっすよ!!」 どんだけ寝るんですか!と布団をひっぺはがすとパンイチの格好の猛さんがいた。頭いてぇ。 「___厳しいな、あと寒いんだけど」 「服 着 ろ」 べしっと猛さんのであろうTシャツとジーパンを投げる。イテッとか聞こえたけど無視だ。まさか有里ちゃんの前ではパンイチしないよな?……しないって信じとこう。もうご飯の準備は出来てるから、簡単にではあるが部屋を片付けすることにした。っつっても試合のビデオとか、選手のデータとか、猛さんのきったない走り書きメモとかしかないが。 「___ー」 「はいはいなんですかー?」 「お前、嫁に来いよ」 は? あまりの驚きに積み上げたファイルに手が当たってバサバサ、と崩れた。あらら、と猛さんの声がして、チラっと彼を見る。いつも通りの自信に満ちているにんまり顔で、こちらを見ている。心臓うるさい。 「な、に、言ってんですか。やですよ、嫁とか」 「じゃあ婿に来いよ」 「そうじゃなくて、…ああほら、そんなこと良いですから早く飯食って監督してきて下さい」 やっと落ち着いてきた心臓に知らんぷりしつつ、猛さんを急かす。朝から心臓に悪い人だ。崩れたファイルをまた積み上げていると、視界が陰った。ファイルが、バサバサと、落ちる。 「すきみたい、お前のこと」 腹部がしなやかな男の両腕で柔らかに締め付けられ、首元に色素の薄い猫っ毛がふわふわあたる。背中に感じる温もりに、また心臓が駆け足になる。 「みたい、って、何ですか。おれは、」 すき、なのに。 振り向きざまに、噛み付いた。 to list |