夢色ブルー




あの人の水色は、空と海が混じった色。果てしなく、遠い色。


「___」

「、迅さん」


眠そうな、目。その割に何かを見透かしたような、おれを捉えているようで、本当は何も見ていない目。苦手、だ。
視線を迅さんからさっきまで睨めっこしていたディスプレイに戻して、キーボードのFとJに人差し指を合わせる。


「大変そうだなー。ぼんち揚、食う?」

「…大変そうに見えるなら、勧めないでください」


ぼんち揚自体はどちらかというと好きだけど、この人の好物と知ってから敬遠するようになった。この人は雲のような人で、掴むことなんて出来ないから、それなら手を伸ばすことさえしたくない。
カタカタとおれのタイプ音だけが室内を支配する。後ろに立つ男の気配は消えない。


「……実力派エリートが、こんなところで油を売っていて良いんですか?」

「いやあ、なんっか落ち着くんだよなあ、ここ」


柔らかい声音に、ぐ、と指が吊ったかのように動かなくなる。最悪だ。この人のサイドエフェクトは目の前の人間の少し先の未来を見ることだ。これも、きっと、見えていたに違いない。待機状態の真っ黒なディスプレイに反射しているおれが少し嬉しそうで、腹が立った。気持ち悪いよ、おれ。
指が動くことを確認して、またキーボードを叩く。少し乱暴なのはご愛嬌だ。


「………」

「あれ?だんまり?」


どこか面白がっているその声は、実は平坦なものなのかもしれない。おれが勝手にそう思っているだけで、おれ相手にサイドエフェクトを使うことなんてないのかもしれない。こんなに近くにいるけれど、本当はずっと遠いところに彼はいるのかもしれない。


「迅さんは、嫌な人ですね」


知らない内に指が止まっていたことを、目の前が真っ黒になることで知った。待機状態のディスプレイに映った迅さんはモノクロで、あの大嫌いな水色も見えない。手が、届いてしまうんじゃないかと錯覚してしまいそうで、後ろを振り向く。


「そんなの、おれが一番よく知ってるよ」


得意げに細められた水色に、安堵する。よかった、やっぱりおれの手なんかが届く人じゃない。
この人の水色は、空と海が混じった色。果てしなく、遠い色。だからきっと、好きになったんだ。




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