小説 | ナノ
ドルチェタイム・アブダクション





「君が噂の子か」



今私は大変困惑している。そもそもこの幻想的な世界に来た当時の比ではないのだけれど。


私はいたって普通な地球という太陽系に含められる星の、日本という小さい島国で、ひっそりとしたのどかで平和な田舎に住んでいたというのに。生粋の都会人とかでもないからそんなぱっとしないかもしれないけどどちらかと言えばのんびり屋の私には快適でかけがえのない故郷。なのにわけわからない内にこの、FF13の世界にトリップなんかという自分の意識を疑いたくなる事象に巻き込まれたかと思えばコクーンに来て一番初めに出会ったのはガレンス・ダイスリー代表様というあんまり美味しくない展開だし(だって、正体知ってるだけに怖かったマジで)なんとかあの場は火事場の馬鹿力というものだろうか。それとも格好良く言うと底力?兎に角も難を逃れた私は迷子のルシとして何故かPSICOMに保護された。実は、私も一応聖府のルシになってしまっているらしい。手のひらに刻まれていた烙印は間違いなく、ドッジ君やレインズ准将に在ったような形をしているし。一通りこの世界の物語を知っている者として、どうすればいいのかまだわからないけれどとりあえず甘えさせて貰いゆくゆくは使命を果す為に旅に出ようかと。


そうぼんやりと考えながら、今日は久々に検査を終えて珍しくナバート中佐に外出の許可を貰ったからショッピングに行きたいといえば、滅多に見ない笑顔で快く送り出してくれた。噂とか、ゲームをやっていたせいで植えつけられた先入観など皆無に等しいくらい彼女は本当は良い人だと思う。私が女だからか、それともルシだからかわからないけど。その時にロッシュ中佐が同行すると言ったけど、ナバート中佐に女の子の買い物に付き合えるほどの度胸があるの、とぴしゃりと叱り付けられてしゅんとなってたのはちょっと面白かった。かわいそうだから本人の前では言えないけど。

しかし、だ。もうすぐでラムウ・モールに着こうとした直前に声をかけられた。振り返ってみれば、かの騎兵隊を率いる准将殿がひとりでイメージ通りな悠然とした佇まいでいるではないか。メイルフォードはそこで少しだけ首をかしげた。私はこの世界に来てから彼に会ったことなどないし、本当に私を指しているのかもわからない。聞き間違いかなと、メイルフォードが視線を前に戻して脚を踏み出そうとした。



「前触れもなくこの世界に現れた聖府のルシ―――なのに類なる寵愛を受けている子はどうも鈍いようで」


「……私のこと、言ってる?」


「そうでなければ反応しないとは思うのだが」


「むぅ…」



からかっているのか、そうではないのか。少し釈然としない気分のまま彼の方へ向いてみれば、驚いた。身長はでかいと知っていたけれど実際にこう目の前にすると圧巻される。私も背は大きい方ではなかったから余計にそう思う。下手したら三十センチ以上も差があるかも。少しばかり見上げる形で悔しいけれど何となく負けたくなかったから見つめ返せば、微かにシドの口元が弧を描いたかと思えば突然左の頬を彼の大きな手が捉えた。手袋越しにでも感じられる温かさと思いがけない事態にメイルフォードが思い切り肩を跳ね上げさせるものだからシドの表情は余計に穏やかな雰囲気を隠さない。


「私と同じ髪色の人がなかなか居ないものでね、嬉しくて。それにこんな可愛らしい女性とくれば誰だって黙ってはいないだろうね」


「ちょ、あの…恥ずかし…」



あまりこういったことには抗体が無いメイルフォードは、それこそシドは外見やら身なり仕草全て理想というか、格好いい部類にダントツに上るくらいの男性であるから多少なりとも気にしてしまい恥ずかしくなってしまい。ただ彼は興味本位で私に話しかけているだけなのだから、と心に言い聞かせたって動悸は治まってくれそうにないし更にはなんだか彼がさっきより近い気がする。逃げたくても逃げられないこの状況にどうしたものかと、困り果てていた時だ。


「……メイルフォード?」


「あ、ロッシュさん…!」


聞きなれた声が聞こえ、メイルフォードは咄嗟に声のした方へ振り返ってみれば予測通りロッシュが怪訝そうな表情を浮かべているせいかいつも以上に眉間のしわが寄ってる。いずれとれなくなるんじゃないかとか妙な心配をしてしまう自分にはまだ少し心に余裕あったじゃないかと安心し、そしてちょうどいいところに彼が現れてくれたから好都合とも言えるロッシュの登場を機に彼のとこへ行こうとしたけど、なぜかシドに肩を引かれその大きな腕にすっぽりと抱えられてしまった。え。あの、ちょっと。


「レインズ准将殿、なぜこのような場所に」


「それはこちらの台詞だよロッシュ中佐。もしかしてこの子を探しに来たのかな」


「帰りが遅いからと、ナバート中佐に言われたからです。 それと、あなたがメイルフォードに関わる理由が分かりかねますが」


「聖府のルシという存在は本来ならば公にされてはいけない存在の筈。なのにどうして彼女が噂になっているのかという好奇心には勝てないものでね」


「だが傍から見れば彼女はただの女性であり准将殿が無理やりにも、という光景にも捉えられます。それにルシに関する事柄は我々PSICOMの管轄です―――メイルフォード、今日は戻ろう」


気のせいかいつも以上に怖い気がするロッシュ中佐の雰囲気が一瞬だけ柔らかくなった。やっぱり彼はいつも通りに接してくれるから一番安堵できる人だし、何より生真面目な性格が効してか困っている私を手助けしてくれるから彼のところに行きたいのは山々だけど、シドも中々手を放してくれそうにないのだ。途方に暮れそうになり、だけどずっとこうしているわけにもいかないから恐る恐る視線だけで上を向いてみれば、シドと視線がかち合った。その刹那、一瞬だけ動きが止まるシド。どうしたのだろうかと無意識に首をかしげたのは間違いだったのだと、男性から見ればそれがどんな破壊力を生むのかわからない彼女は後悔する。



「………」


「あの、シドさん…? っきゃあ!?」


「メイルフォード!」



突然膝裏に腕を回され抱き上げられる、それは俗に言う横抱きの格好にされてメイルフォードは思い切り悲鳴を上げたがシドは気にせずにしっかりと笑みを湛えつつ。そしてどこかロッシュに対して挑発的な意味を込めた視線を投げる。彼にも伝わったらしく、珍しくロッシュも一瞬だけ動揺した。



「ロッシュ中佐、悪いが私は酷く彼女を気に入ってしまってね」


「メイルフォードは物ではない…!それにあなたがたの管轄でもないだろう!」


「ならば私が護ればいい」




それから数時間にも及ぶ准将と誘拐されかけたメイルフォード、それを追う中佐の騒動が治まったのはナバート中佐による酷く辛らつな一言によってだった。いい歳した大人が馬鹿らしいわ、と。


(メイルフォード、今日は私が傍にいるが外出しないようにしてくれ)(やあメイルフォード、会いに来たよ)(何処から来たんですか准将…!)
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甘めのはずなのに、ギャグにしかなりませんでした。何故!
兎に角も優月様リクエストのシド+ロッシュが夢主さんを取り合うお話でした…こんなのでも書いていた身として何気に楽しかったですこれ。
でも不完全燃焼な部分はあるのでいつかまた同じようなの書きたいです。
しかしどうしてかギャグ風になるとシドが変態というか危ない人になるのは何ででしょうか…。
この作品はリクエストされた優月様のみお持ち帰り可能です。
少しでもお気に召して頂けたら幸いでございます。
それではリクエスト誠にありがとうございました!

(10.2/27 up)
《ドルチェ》
イタリア語でデザート

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