小説 | ナノ
眠りのような愛を知り
「メイルフォード姉さん!」
花火大会前夜。
会場となる浜辺には明日へ向けての準備があらかた終わり、いよいよ当日を迎えるだけ。些か高揚気分が窺える人々の波をかい潜り、桟橋に座り込み暮れ行く夕空を眺めていたメイルフォードの名を、スノウは高らかな声で呼んでいた。
「スノウー、君の姉貴じゃないってなんぼ言えばわかるのよ」
「いまさら何言ってんだ、別にいいだろ?姉さんは俺達ノラの「鏡だから?」――って、先に言うなよ」
「聞き飽きたのそれは!全く、あんとき助けなけりゃよかった」
「そうは言いながらも満更でもないだろ」
「大勢とつるんでると嫌でも昔思い出すからなぁ」
まただ。
メイルフォード姉さんは昔を語りたがらないくせに香らせる。恐らく問い詰めれば語ってくれるかもしれないが、俺はそんなことをしたくなかった。俺達ノラのメンバーがメイルフォード姉さんを慕っているのもあるが、なにより悔しいがセラが一番離れたがらないのだ。理由はわからないが、俺が知る限り誰よりも強く、優しい。
だからか、そのメイルフォードを中心とした繋がりを壊したくないという、エゴからくるのだろうか。
「そういや、プロポーズしないのセラに」
「あー…それは、明日の夜にな…」
「願いが叶うっていう花火に願ってか?そんなに心配しなくとも君なら大丈夫でしょう」
「一応、願掛けみたいなもんだ」
「似合わないねぇ」
確かに大切なセラが慕っているのも、ノラの皆が憧れているせいもある。だがもしかしたら、俺はメイルフォード姉さんと共に居られる時間が心地よかったのかもしれない。そうでなければ、セラとの関係について話したりするはずないのだから。
「必ずオーケー貰えますように、ってな」
そして同時に、どこか俺達とは違う彼女に憧れていたのかもしれないと、(思いたかった)
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