ノエル夢祭り | ナノ
寄り添う青の鼓動


彼にずっと言おうと思って、いえなかったことがある。



私はふとしたことが切欠でこの死にゆく世界へたどり着いてしまったのだけれど、正直な話初めてこの世界を眼にした時『綺麗』だと思ったのだ。
空は怖いくらいの赤に染まり、山は猛々しい黒さを纏い、地は白い砂漠に覆われているこの生きるモノが朽ちてゆく世界を。
白い砂漠に取り残されている私を見つけてくれたのも彼が住む村へと案内してくれたのも、全部ノエル。
右も左もわからない私の手を引いて、笑ってくれた。それだけでどれほど救われただろう。
18歳だという彼は私も同じだよといえば、とても喜んだ。それはこの世界では眩しいほどの笑顔。
こんな世界をきっと綺麗だと思えたのは初めて出会ったのがノエルだったからかもしれない。彼と共に見た世界だから、そう思えたのかもしれない。


だけど、私が来た時に居たカイアスという人も、ユールという女の子も皆居なくなって。
元々この世界に生きていた人間はノエルだけになってしまったという。
食料になる魔物も絶えて、水も枯れはじめている。時詠みの巫女が残した予言の書を眺めていた彼は、メルの手を取ってこう言った。




ごめん。 もっと俺、メルと一緒に居たい 我侭だってのはわかってる
だけど俺は旅に出る まだ生きてる筈の人間を探す為に、こんな未来を変えて皆が生きてる未来を作る為に……メルを残してはいけない でも危険過ぎる  どうしていいのか、わからないんだよ



何時も前向きで私には眩しいくらいの笑顔をくれる彼が、誰かを強く思いやる優しい彼がユールを亡くした後、私に向けるのははじめての涙だった。寒いわけでもないのに、震えるノエルに繋がれた手をそっと解いて抱きしめてあげれば、彼も強く強く抱きしめ返してくれた。身長が足りないから、私じゃノエルを包み込んであげられないのが悔しかった。


「大丈夫。きっと私が此の世界に来たのも、ノエルの傍に居てあげるためだから、だから一緒に行くよ。絶対に、何処までも一緒だよ」



ありがとう、絶対に2人で生きよう 未来を 変えよう


そう呟いたノエルの声の震えを止めてあげたいけれど、私には彼のように戦える強さもなければ巫女のように未来を視ることはできないからせめて彼を手放さないように、強く強く彼の背を掴んでノエルの胸に顔を埋めることしかできなかった
傍で聞こえる心音が酷く、優しいときだった



しあわせだよ わたし ノエルに会えたんだから だから泣かないで

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お題元様:オーヴァードーズ

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