13-2部屋 | ナノ
◇プロローグ:ヴァルハラにて


悠久と永劫の色が混在するこの混沌なる地――ヴァルハラにて、女神エトロの力と意思の存続が危ぶまれている。誰も座していない玉座に頭を垂れているのは白銀の輝きが満ちた騎士ライトニング。

彼女の双眸は深く閉じられていた。
それは騎士であるべく自らの意思を確認するかのように、それでいて深く思案するように。語られなければ彼女以外には解らないであろう世界が其処には存在する。


緩やかに上げられたライトニングの双眸にはそれは酷く美しい命の強さが在った。
ヴァルハラから視える時の流れがそうさせるのか定かではなかったが、確かに彼女を模るのは想像もつかぬ大きな存在なのかもしれない。
静かに踏み出される歩の音は騎士である証の鎧の音色。女神エトロの座を守るようにして立てられた建物からはヴァルハラの地を一望できる。
深く淀んだ空気と暗雲の立ち込める世界。海辺の白さはなく地平線まで続く灰色。
それを一度眺めた後、テラスのような場所に佇んでいたライトニングの視界の端に朱色が過ぎる。



本当は、この地に在ってはならない存在。
しかし私が――ライトニングが"あの時"望んでしまったが故に女神エトロが救い上げてしまった1人の女性。
ライトニングの視線を感じたのか、手すりのような場所に腰掛けていた朱色の服を纏う女性は緩やかに振り返る。
紅いシャドーをわざと目を這うように引いた、類いなる異端を孕んだその漆黒の双眸は酷く穏やかであった。まるでライトニングの心を解っているとも言いたそうに。
だが彼女、メイルフォードは何時も何も言わないのだ。相手の心を汲み取ったかのような笑みを浮かべるだけで何も咎めたり勇んだりしない。
その彼女独特の仕草がライトニングにとっては何時になっても変わることのない不変の安堵感と、メイルフォードに対して何かをしてやれることのない己を責めてしまう一因であることを知らない。
ライトニングとて彼女と同罪なのだから。何も、言わない同士。


「ライト、私達に客が来たみたいだよ。それもとても大きな…ね」

「……メイルフォード、おまえまでもが戦う理由はないんだ。何故、私に――エトロに手を貸す」


「さてねぇ。そんな些細な事なんて忘れちゃったよ。何より『何度も死んだ身』としてはとてもどうでも良いことなんじゃないの」

「――すまない、あの時…私が望まなければ…おまえは」



「はいそこまでー」



ぱん、と。両の手を大きく合わせ笑みを深くしたメイルフォードにライトニングは不思議そうに双眸を瞬かせた。
手すりの上に立った彼女はその手に己のクリスタルを具現化させる。球体のクリスタルの中には幾重もの花びらが永久の輝きを秘めている。僅かなヴァルハラの天より降り注ぐ光に照らされ、それは数多の色を囁いていた。


「私はライトのそういう言葉を聞きたくて此処に生まれたわけじゃない。ヴァルハラのベンメリアとして生を受けたからには、こう生きるしかないんだ。だけどね、」



右手で弄んでいたそれを不意に宙へ投げて背負っていたダブルセイバーで砕く。
刹那、巨大な召喚陣が空に浮かび力の意思を感じる。息吹が空を凪ぐ。メイルフォードの力の一端。



「君のおかげでまた世界を見ることが出来る、だからとても嬉しいのさ」


暗雲を切り裂き空に舞う召喚獣ヴァルファーレの背に降り立っても彼女は笑っていた。
ずっと変わることのないその笑みの生まれる理由は生きているから、そう単純に片付けてしまう戦士は数多の時空モンスターの群れへと飛び込んだ。
メイルフォードの姿が見えなくなるまで視線で追っていたライトニングも自らの剣を構えた。純白の羽が舞う。
静かな闘争の意思を顰めた双眸が見つめる先には女神エトロを滅ぼうとする者――カイアス・バラッド。






これがすべてのはじまりとおわりの、




――メイルフォード、すまない 巻き込んでしまったのも おまえをまた逃れられない生に縛らせてしまったのも 全て私の責任だ だから、

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