短編小説 | ナノ

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感情に身を委ねれば気が触れてしまいそうな視界。一層の事狂気に心が支配されてしまえばどれ程楽だろう。
けれど、託されたもの全てを投げ出す度胸などない。

終わりの無い苦悶と悲嘆の形相を見続け、自身だけは生に縋り付く日々。
誰からも理解されることのない凄惨な景色と、他人の命運を盾とする行いは、悔恨と自己嫌悪に心緒を染める。

一体いつまで続ければ果てに辿り着けるのかと、憔悴しきっていた。そんな折柄だった。

黒々染まる相好とは正反対の、光にも似た微笑みを目にした瞬間のことだ。これは希望なのだと直感した。

酷く穏やかで、長い苦悩の終わりに祝福を送るかのような、慈愛に満ちた表情。そんなものは未だに見たことが無い。一体何故、最期にこんな笑みを湛えることが出来るのだろう。

初めはその最期を見届ける事が自身の救いになると信じ、自身の拠り所として美しい笑顔に寄り付くようになった。
次第に、それを何としても守りたいと強く願うようになった。しかし、この視界からその微笑が失せない限り、それは叶わない。


どうして崇拝じみた執着が離れないのか。希望を見出したのか。安寧を感じたのか。
終焉が訪れた刹那、全ての理由を見出し、漸く与えられた平穏を受け入れた。
…初めて、幸せだと心から安らいだ。








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