長編小説 | ナノ



 Le monde de arc en ciel d'étoiles


]]T

大きな虹が根を下ろす位置は二つ。そのどちらも深々と繁る森に突き刺さっている。行動は二分せずに先ずは近い位置の根元へ向かうが、直線的な移動ではなく遠回りになるが斜面から下を見下ろせる地形から回って行く事となった。

「イーファはイノセンスを落としちまって正解だったかも知れねェな」
傾斜の上に位置する森から、その真下の木立を眺めてラビが言う。どういう意味なのかと思い同じ方向を見下ろすと、身一つで何をするでもなく同じ場所を徘徊る男性の姿があった。慌てて木の幹に体を隠しながらラビに視線を送ると、剣呑を孕んだ眼差しがこちらを向いた。

「十中八九アクマだろうな」
そう言った彼の隣に、いつの間にか音もなくブックマンが立っていた。
「奥には更に何体か潜んでいるかも知れん」
道理で奇怪の噂があるのに全く近郊でアクマと居合わせないと思ったら、既に森でイノセンスを探し回っていたらしい。

「こっからだと見渡し辛くない? 向こうでもう少し様子を探ってみようよ」
そう告げたエマティットが示す方向は、僅かに斜面を降りる事となるが、身を隠せそうな下生えと木々が適度にあり、深い森の奥を見遣るのに丁度良さそうな角度の場所であった。
そこへと改めて移動するが、虹の元へ辿り着くまでに空へ掛かった七色が消えてしまわないかと仰ぎ見る。水気の無い晴れた空には、まだ鮮明な色味の虹が輝いていた。
その様子に安堵しながらも、木陰に身を潜めて周囲や下方に見つけたアクマらしき人物を警戒する内に、私の身内の緊張感は少しずつ高まっていくのだった。

――これから戦闘になるんだ。
鍛錬でも訓練でもない、命を賭した戦いだ。私に何ができるだろうかと、移動した先で身を屈めて一心に森で蠢く影を見つめていた矢庭、肩に何かが触れ後方に引き寄せられて思わず仰け反った。
次いで低く静々と緊迫を胚胎した声が耳元に落ちてくる。

「あの木の下、見えるか?」
ラビの声だった。大きな声を出せないので当然だが、思いの外近い距離に鼓動が逸る。その動揺を見に押し込めて、私の視線に合わせてくれている彼が示す目印の先に視線を飛ばした。すると木陰に新たな人影を発見する。
「あと八体周りに隠れてる。警戒はされてるけど、オレ達の位置はまだバレてなさそうだな」
そう言いながら、ラビは私に分かるよう彼が宣言した数のアクマの所在を教えてくれた。
「六、七、八……。ほん……とだ」
私はたったの一体に気を取られていたが、彼はほんの僅かな時間で一帯の敵の数を把握していたのだ。瞠目の最中に言葉が続く。
「最初に見つけたアクマは囮だ。あいつとの交戦が始まったら隠れてる奴らが周りを取り囲んでくる。……けど、陣形組んでくるような知能は無いし攻撃は単調で読み易いから、突然襲われたとしても大した陽動じゃないさ」

「どうする? ジジイ。あいつらの意表をつくか、囮に釣られた振りするか」
「……。より遭遇する可能性の高い状況を見せよう」
「ってことは。まずはあいつだな」

「……アリス。今回は戦わなくていいから、ここでエマティットと待機してて。で、焦らず全体の動きをよく見て自分の立ち回りを考えること」
自分で戦う必要がないのは少し肩の荷が降りる心地だが、それでも目の前で死闘が繰り広げられるのには変わらない。返事をしようとするが上手く声が出せずに、弱々しく返してしまった。
「う……ん」
「その前に深呼吸だな。はい、大きく吸って」
言われるがままに私はぎこちなくも息を吸い込む。
「ゆっくりはいて。…………もう一回」
深く呼吸をする。ただそれだけの行動に注力するだけで、体に掛かっていた余計な力が解かれたような心地になる。
「ありがとう、少し落ち着いたよ。……二人とも、気を付けて」

]]U

本来戦闘員である私が高く安全な位置に居るのは罪悪感があったが、新しく未確認のアクマがやって来ていないか視覚と聴覚を広く伸ばしながらも、ラビとブックマンの動向を見る。
折角冷静に見て学べる機会を貰ったのだから、それを潰す方が余程彼等に対し失礼に値するだろう。

ラビとブックマンは二手に分かれ、ラビは囮であろう男の方へ姿を隠すアクマ達にその身を晒すようにして駆ける。対するブックマンは身を隠しながら迂回するような形で敵のいない方向から男に近付いていく。
攻撃を仕掛けたのはラビだった。死角から駆けて来る彼を気取った男は慌てたように人の皮を蹴破って本来の姿を表す。球体に幾つもの巨大な砲台を備え付けた様な歪な形で中心には歪んだ表情の男の顔が仮面の様に張り付いている。機体の下部には束となって配線らしきものが垂れ下がっている。
それは、アクマは命を宿しながらも、決して血の通った生き物では無い事実をぶら下げ見せつけているかのようだった。

異形に少しの躊躇もなく槌を振り翳したラビは、力強く柄を振り抜いて機体に大穴を空けた。その途端、彼が駆ける後を追うように轟音と共に土を抉りながら地に砲弾が撃ち込まれていく。
思わず叫びそうになるのを押し留める。

――大丈夫、ラビは分かっていて立ち回ってる……。
それを理解していても、見に一発でも受ければ致命傷となりかねない銃痕の鋭さに身が竦む。鼓動が耳元で脈打つようで落ち着いていられない。
――……駄目だ。冷静にちゃんと周りも見ないと。
少し前に教えられた通り、浅くなる呼吸を深く二、三度繰り返して己を諫めながら、改めて下方の戦況を正視する。

すると、木々の間を走りながら銃弾を避け続けていたラビが身を隠していた一体の間近まで近付いていた。
察知したアクマは森の奥へ姿を眩まそうとするが、俄かにアクマが退がった先に無数の大きな黒い針が現れた。事前に聞いていた、これがブックマンのイノセンスが為せる技だ。
針の山に押し込めるようにラビが槌の平面で動きを止めたアクマを叩き、二体目を撃破した。
形成が徐々に移り変わるのを察知したアクマ達が其々留まっていた場所から離れようと動き出すが、その全ての退路をブックマンが防ぐように攻撃を仕掛け始めた。

老齢である事を一切感じさせない機敏な動きだ。しかし、ただ追い込んでいるだけではなく何が策略があるのか、動き回るアクマ達を選びながら攻撃を仕掛けているように思える。
それはまるでアクマを整列させているようで……。
瞬間、思考が繋がった。すかさずラビを見遣ると同時に炎の蛇がアクマ達の方向へと放たれた。
並ぶアクマは蛇の軌道を示すしているようで、その隊列をなぞるかの如く緩やかに弧を描いて鎌口が次々とアクマを飲み込み焼き尽くした。

「……すごい……」
迅速な師弟の連携に、思わず感嘆を口にしていた。
そして改めて感じたのは、二人共単独でも十分戦える洞察力や技術を持っているという事だ。その上で敢えて協力して戦う術を見せてくれたのは、きっと私にはまだ単独での戦闘が難しいと判断して、学びを与えてくれたからだろう。
二人に報いるためにも、私も自身の立ち回りを早く確立させなければならない。

しかし、広い視野を持ってアクマの位置を把握するのは必須だが、私にはラビのように遠距離の敵を攻撃する力は無い。かといってブックマンのように無数の武器で取り囲むことも出来ない。
だとしたら、私が周囲の足を引っ張らずに役に立つ為にはどうしたら良いだろうか。

]]V

新たなアクマが出現する様子がなさそうだったので、エマティットと私は斜面を降りた先にいる二人に合流する。
二人の闘う姿を見た上での自分の立ち回り方について、判然とした答えはまだ出せていなかったが、現状導き出せる一案を告げた。
「ラビ。考えてみたんだけど、私が囮になってアクマを引き付ければ少しは役に……」
「ば……っ」
私の言葉に被せながら強く言い掛けるラビの語気に思わず身が跳ねた。私の発言に気を害してしまい、怒鳴られてしまう気がしたからだ。しかし彼は開いた口を閉じて一つ咳払いをすると、落ち着いた声調で言った。
「……いや。そんな危険な事はしなくていいんさ」
すると近く密かな笑い声が聞こえ、ラビの後ろでエマティットが口元を抑えて笑いを堪えているのが目に入った。
「ラビの指導力不足だね」

どうやら私の回答は間違いだったらしい。ラビが伝えんとしていた答えを導き出せなかった事が不甲斐ない。
「……あの、ごめんね」
「気にせんでいいさ。アリスが悪いんじゃない」

ラビは私に、常に臨戦態勢に入れるよう心掛けるのは大切だが、今回の任務に於いてはアクマとの戦闘に無理に入ろうとしない事と、今回の任務での戦闘はアクマの行動における規則性や、状況を見極める目を養う訓練だと思って良いのだと言ってくれた。
勿論その口調は相変わらず優しく、少しも私を責め立てる意図も感じられなかったのだが、私は己の無力感を拭えず手放しで喜べなかった。

ラビを先頭に、ブックマンを最後尾として虹に向かって前進する最中、私の横にエマティットが並ぶ。そして、先程のラビの言葉は対アクマとの戦闘訓練もほぼ無く任務に駆り出された私への気遣いなのだと耳打ちしながら教えてくれた。
「新人のアリスちゃんに無理させたくないってはっきり言えばいいのにね。変なトコ不器用だよなぁ」
そう言ってエマティットは笑ってくれたが、果たして実際はどうなのかと疑心が生まれる。足手纏いだから邪魔されたくないのでは、と。
事実、早速私はラビの意図が読めずに的外れな発言をしてしまったのだから。
そんな卑屈な思いばかりが浮かぶ。

前を進むラビの背を見つめていると、不意に額を軽く何かに弾かれた。
「アリスちゃんも。そういうトコだよ」
後ろ向きの思考はお見通しという事だろう。任務に出る前は折角前向きにと思い直せていたのに、いつの間にか心持ちが真逆に方向転換してしまっていた。返す言葉が無い。
「……ごめん」

改めて気持ちを切り替えようと背筋を伸ばした時、ラビが立ち止まり振り返った。
「先にアクマがいる。少し様子を見るか」
静かな緊張を胚胎した声音に従って、辺りの下生えに身を隠しアクマの姿を探す。すると私達の進行方向のほぼ直線上の木々の間に、森の色と不相応な銀の影が見えた。

「あのアクマも虹に向かって進んでるみたいだね」
「多分。……今の所、周りに他のアクマもいないみたいだし、距離を取りながら進んでみても良さそうだな」
ラビとブックマンが背後や近辺をくまなく観察したが不自然な様子は見受けられなかった。
前方向のアクマの挙動も誘導の可能性は捨て切れないが、目的地である虹の根本が行先なので警戒を怠らずに後を追うような格好で私達も目的の場所に進む事になった。

]]W

「あれから一体も出てこねェな」
虹に近づいているにも関わらず、遭遇するアクマの数が増えるどころか一切見掛けもしない。不自然なまでに森は静まり返っている。
何らかの罠に向かっているのでは。そんな憶測が浮かび始めた折に、虹の方へ向かっていたアクマの姿が唐突に姿を消した。こちらに気付いて姿を眩ましたのかと周囲を確認するが、何かが襲い掛かってくる気配はない。
「あのアクマは一体何処に……」そう思い一時的に前進停止したが、やはり何も起こらない。
このまま手を拱いていても仕方がないとの結論で歩みを再開し先へと進んでいくと、遂に木々の間から虹の根本が見えてきた。

想像以上の範囲に広がる巨大な色彩は、遠目には境界を得て八色に見えていたが、近距離で目の当たりにすると区切りも際限も無く自由に輝いていた。
美しい光の粒子達は、虹の根本と表現するよりは色づいた霧雨が空中で光を帯びながら踊っているかのようだ。
「アリス、下がって」
高い草の元に身を隠しつつも美しい景色に見惚れていると、不意にラビが私の腕を掴んで後退する。引かれるがままに下がりながら彼を見遣ると、その眼には何処か驚きの色が浮かんでいた。

「この虹、でかくなって……。と言うか、こっちに近付いて来てるよな?」
その言葉に再び虹へと視線を戻すと、言われた通り一瞬目を離した隙に先ほどよりもずっと近くに虹の粒子の煌めきがそこにあった。
そう認識した今この間にも、段々と虹は眼前に近付いてくる。まるで私達を光の中に飲み込もうとしているようであったが、何故か私の内には危機や恐怖の感情が微塵も生じていない。
その不思議な感覚に戸惑っている間に、とうとう視界が迫り来る七色の光に染まった。それが余りにも眩しく、思わず眼を閉じた。

]]X

強く風が吹いている。
目蓋を隔てて刺激を与えてくる光が淡くなった気がして、薄く眼を開く。すると先程とは打って変わって辺りが仄暗い。
確と目蓋を上げれば、開けた視界に飛び込んできた景色は深緑ではなく濃紺であった。
「どういう……こと」

頭上に広がるのは星が瞬く広大な夜空だ。
慌てて間近を見回すと他の三人も私と同じ場所にいて、位置も虹の光に包まれる前と同様だった。
ふと足元を見下ろすと、この吹き曝しの空間の地面は白く、足が沈み込まない程度の弾力がある。
屈んで触れてみると質感は柔い樹脂に似ていて、きつく張った分厚い革の上に立っているようだった。
よく見ると、足元の安定は保ったままに地面は時折緩慢にうねっている。微細で規則性のある振動は、どこか生物を思わせる。

「なあ、あれって……」
足元ばかりに気を取られていたが、ラビの一言に顔を上げ指差す方向を見遣る。眼を凝らすと魚の鰭に似た形状の白く平たい巨大な何かが、風を仰ぐかのような動作で上下に波打っている。そしてそれは私達が立っている地面に切れ目なく繋がっていた。

「まさかこいつ、鯨……じゃねぇよな?」
鯨、と言われ書籍ではその姿を見た事があれど、実物は未だに見た事がなかったので、すぐには実感が湧かない。
けれど改めて地面に手を触れて触ってみたり、動く尾鰭らしき部分を眺めていると、確かに巨大な生き物の上に立っているのかも知れないとも思う。
しかし、ここは海でも無ければ陸地でも無い。明らかに空中だ。
「俺達、空飛ぶ鯨の上に乗ってるって事? いや、流石にあり得ないでしょ」
エマティットがそう呟くが、その表情は非現実を受け止めきれない混乱が吐き出した言葉に近いように感じる。事実誰もがそう思っているだろう。

私達は白い鯨らしき生き物の背に乗ったまま、周囲を警戒したままに硬直状態となっていた。
降りる事も出来ず、鯨の進行を止める事も出来ず、どう転ぶかが不安定な状況下で敵が近くに居るのかどうかも判然としないからだ。
状況はアクマとイノセンス、どちらが作り出したものか、まだ判断する材料が少ない。

確認してみたが適合者の三人の内、誰もイノセンスを発動出来なかった。その理由がアクマによる精神的な攻撃を受けている為か、或いはイノセンスの怪奇によって現実とは異なる空間に転移されたのか。
明らかな敵の姿は無くとも警戒は暫く解けそうにない。

「しっかし常識や現実をまるで無視してやがんな」
「何だか夢でも見てるみたいだね……」
鯨の上に乗って数十分が経過した頃合い。ラビが呟いた。言う通り四方の何処を見渡しても陸地は何処にも無く、星空が広がっている。時折その内の一つがあの虹のように輝きながら遠くへと流れ落ちていく。

]]Y

唐突に、鯨が向かう先から滝のような激しく止め処ない音が聞こえてきた。
先に何があるのか、肝心な正体は厚い雲が包み隠していて全く見えない。鯨は気に留める様子もなくむしろその音に向かって進んで行く。
白く高々と聳える雲の中へと差し掛かると視界は濃厚な白い靄に包まれた。振り払えるかと眼前で手を振ってみるも全く意味はない。
滝に似た轟音が段々と大きくなっていき、やがて厚い雲を抜けて広い空に出たものの、目の前に広がる景色にまたしても驚きに目を見開いた。

堆く積もる雲の山の頂から、水が流れ落ちている。……あれは本当に水だろうか。月明かりを受けて濃紺を背景に輝くそれはまるで大量の星の光が空から落下しているかのようにも見える。
このままでは自身の感覚がこの不可思議な世界に傾倒し、錯覚を起こしているのかどうかさえも分からなくなりそうだ。
混乱に浸る間もなく、鯨は一定の緩慢な速度ながら滝の真下へと向かう。方向を変える様子は全くない。

「……このままだとヤバくない?」
エマティットがおずおずと告げ、ラビが焦りを胚胎した声音で返す。
「って言っても、どうすんさ。この状況で……」
「何処か、掴まれそうな場所は……」
二人程焦っている様子は無いが、この状況にブックマンも眉を顰めて対処を考えあぐねている様子で閉口していた。
身を屈めて掴めそうな場所を探すも、鯨の背は限りなく平面で僅かな窪みもない。かと言って生き物に剣を突き刺すのは躊躇われる。だからといって飛び降りて逃げるのは尚更危険だ。

目下で視線を彷徨わせている内にもう眼前まで滝が迫っていた。私は眼を閉じて息を止め、衝撃に備えて身を強張らせた瞬間、強く肩を引かれて誰かに抱き寄せられた。
けれど眼を開けて確かめる余裕はなく、耳が麻痺しそうな轟音が恐ろしくて、身近の誰かの服にしがみ付いた。

……いつまで経っても水しぶき一つ掛かって来ない。恐々としつつも眼を開けて鯨の進む方向を見ると、又しても景色が一変していた。
変わらず夜空は広がっているが、左右が高い岩壁に覆われていて、どうやら渓谷に沿って進んでいるらしいのだが、不思議なことに谷を流れているのは川ではなく虹色に輝く巨大な光の襞だった。何枚もの布を連ねた様に輝きを放ちながら揺らめく色彩に恐怖を忘れてつい魅入っていた。

私がその圧巻の景色に感嘆を上げた時、ゆくりなく同じように感心を漏らす声が重なった。しかも、かなり間近の耳元で。
驚きのままに声の方を見遣ると、ラビと視線が交わった。彼もまた目を大きく開いて驚愕を面持ちに浮かべている。

「わ、悪ぃ、落ちるとまずいと思って……」
「いい、の。ありがとう。私もごめん」
ぎこちなく体を離してラビと私は距離を取る。するとエマティットが何とも言えない笑みを湛えながら私達に言った。
「仲睦まじくしてる所悪いけど、また次の関門があるっぽいよ」

エマティットが指差す方向には、月を背に臨む、見た事のない大きさの山が聳え立っていた。鯨はその山に向かっているらしい。かなり距離があり遠くに在るのは理解できるが、それにしても巨大だ。あの町の背に広がっていた山脈など比べ物にならない程の高さだろう。
暫く経って更に私達を仰天させたのは、山だと思っていたものが近くにつれて輪郭が鮮明になり、実は巨大な城であったと分かった時であった。
逆光で黒々とした影で全容を形取る景観は、神々しいと言うよりは何処か禍々しさを胚胎しており、神話に描かれる悪魔の住処を思わせる。

壮大な城の麓に辿り着いた鯨は、丁寧な事に船着場のように斗出した岩盤に体を沿わせて停止した。
まるでここで降りて城へ向かえと言われているかのようだ。
降りるべきかどうかを四人で顔を見合わせて惑っていると、足元から唐突に声が響いた。

「メレク様が待ってるんだから、早く行ってよ」

≪PREV | TOP | NEXT≫




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -