Anniversary
リーマンパロディ その後

「んーと、ね」

「ん、ん…っ」

やや困ったような声で小首を傾げた火野は、天子の頭部を再度やんわりと剥がし、その口内に指を差し込んできた。

「ここ。わかる? この歯が当たるの」

「んんっ」

歯列の一部をそっとなぞられ、びくっと腰が跳ねる。タオル生地に包まれた中心はすっかり熱を帯び、先走りの蜜を滴らせていた。

「ふ、ぅ………っ」

そんな恥を知られてなるまいと、口内から指を抜かれた天子は怒張したものを唇で包み込む。潤った舌の上でぬるぬると滑らせると、ぐっと質量を増した彼のものが口腔を押し広げてくる。上顎に先端を押し付け、口をすぼめて何度も吸い上げた。舌に広がる苦味にすら恋情を覚えてしまいそうで怖い。

「ありがとう。気持ちいいよ」

「ん、んぅ……っ」

興奮と酸欠で目眩がする。とろけそうな低音が鼓膜を揺らせば、腹の奥がじんわりと甘怠く痺れた。
唇で扱くように往復を繰り返していると、彼がバスローブ越しに腰をさすってきた。膝で捲れていた裾から不埒な手が滑り込み、天子は身を捩って眉を寄せる。

「ん……っ、なに、して…っ」

「僕にも触らせて」

うっすらと汗ばんだ太腿の裏を撫でられ、冗談じゃないとばかりに天子がもがく。

「や……、しなくていい…っ」

もちろん触れられたくないわけではない。恋人のそれを舐めているという事実だけで容易に高まった状態を悟られたくないのだ。
体を半分起こして身じろぐ天子の耳元で、火野はわざとらしく囁いた。

「一緒にすればいいでしょ?」

ほら、と上体を倒した彼に腕を引かれ、さりげなく下肢を彼の頭の方へ誘導される。言わんとしていることにようやく気づき、頬が燃えるように熱くなった。

「そっ……なの…」

彼に覆い被さり、奉仕しつつ脚を開けと言うのか。羞恥に思わず声を詰まらせるが、中心は愛撫を欲するようにぴくんと震えた。彼のものを口で慰めながら、自分も気持ちよくしてもらえるなんて。
恥ずかしい。でも望まずにはいられない。
無意識の期待に揺れた腰を抱かれ、甘い声で促されればもうそれしか考えられない。

「おいで」

「っ………」

歯を食い縛り、唇をきつく結んで。
シーツを這うような体勢で彼の体を跨ぎ、己が育てたものにキスを押し付ける。手で支えつつ裏側を舐め上げていると、バスローブを腰上まで捲られて思わず振り返った。

「ちょっ……!」

濡れそぼったものが外気にひやりとする感覚。かっと頭に血が上る。後ろへ回した手であらぬ場所を隠そうとするが、両の腿を強引に押し開かれ、下肢の全てを晒す羽目になった。

「っや、見んな……んぁっ」

腰を浮かせて膝でシーツをずり上がろうとするも、つーっと指先で屹立をなぞられて力が抜けてしまう。

「もう可愛くなってる。僕の舐めて興奮した?」

「ぁ、あ……っ」

触れられる前からトロトロと蜜を垂らしていた中心に、ちゅ、ちゅっと唇を落とされて呆気なく膝が震える。意地悪な舌先が先端の窪みをくりくりと抉り、駆け抜けた快感に視界がぼやけた。

「もっと腰落として。ほら」

「うぁ、あ……っぁ…!」

尻から腿にかけてをぐっと押さえつけられ、温かな口腔に招かれた性器を唇で締め付けられる。ねっとりと絡みつく舌の動きを鮮明に感じ取り、腰が勝手に揺らめく。

「っひ、あぁっ……!」

きつく吸い付かれればがくがくと膝が震える。待たされた体にはあまりにも強烈で、恥じらいもなく性感に忠実な声を漏らしていた。

「僕のこともして?」

「んっ! ぅん……っ」

吐息の合間に舌で表面を撫でていたが、後頭部をやんわり押して命じられ、彼のものをおずおずと咥え込む。与えられる刺激に反応して噛み千切らないよう、柔らかな唇に包み込んで頭を上下すれば、先程よりも口の中で力強く脈打つ気配がした。
彼も自分への愛撫で興奮が増すのだろうか。内腿に吸い痕を残したいのか、不意に唇が触れる。ちりっと走った痛みへの仕返しに、咥え込める限界まで頭をぐっと落とした。
舌に擦り付けるようにして抜き差しを繰り返し、口腔から喉にかけてをきゅっと絞る。喉奥に伝い落ちる熱い雫を飲み下し、ちゅぷちゅぷと濡れた音を立てながら口で扱いてみせた。上手だね、と髪を撫でながら褒められたのも束の間、指先で尻の狭間をそっと探られ、ビクッと天子は背をしならせた。

「や……っ、それは…っ」

そんな場所まで眼前に晒していたのかと思うと羞恥で頭がおかしくなりそうだ。抵抗に身を捩ると優しく腿に歯を立てられ、じんとした甘い痛みにすら中心が蜜をこぼす。

「いい子にしててね」

「は………っん、そんな、ぃやっ、だ……ぁっ」

両の親指でくっと狭間を押し開かれれば、ひくひくと何かを欲しがるように窄まりがわなないた。花開いたばかりの初々しいそこを、尖った舌先がつんつんとつついてくる。

「き、たな……っ、やっ…」

「暴れないの。気持ちよくしてあげたいだけだよ」

上擦った声をなだめるように腰を撫でつつ、熱っぽい舌がぬるりと這わされる。耐えがたい羞恥と下腹部を直撃する刺激に身を震わせ、天子は涙混じりに嗚咽を口にした。

「ぅあ、あ……っ、やめ……ぇっ」

「嫌なの? こんなに感じてるのに」

スルリと前に回った手が濡れそぼったものを愛撫する。優しい指遣いでゆるゆると扱かれ、抑えようのない声がシーツに散らされれば、きつく閉じた蕾にぐりりと舌先が捩じ込まれた。快感とも悪寒ともつかない感触がただただ恐くて、つぷつぷと浅く抜き差しされると下腹部が波打つように震える。

「だっ……め…っ、こんな、ぁっ、あう」

「ここ弱いんだね。可愛い」

「あ、あ――――っ」

濡れ綻んだ蕾を抉じ開けようと、長い指がずぷずぷと埋め込まれる。腰の奥を穿つ衝撃で達してしまうかと思ったが、爪でシーツを掻いて必死に堪えた。

「昨日もしたからかな。すんなり入るね」

「ひっ、あ、うごかさ、な……っ」

初めてここに指を含まされた時は、どうしようもない不快感に口許を押さえていた。内臓を探られる度、吐き気に似た感覚が込み上げて俯いた。なのに、今は。
ゆっくりと指が抜け出ていくと、また舌で奥まで濡らされて。交互に与えられる確かな刺激に、彼を慰める役目も放り出して喘ぐことしかできない。やがて指は二本に増やされ、腹側をわざとらしく擦り上げていく。

「ひん……っ」

「ああ、ごめんね。強かった?」

内壁の一点を優しく指圧されると勝手に腰が浮き上がる。揃えた指を執拗に抜き差しされて、ほぐれた場所がじんじんと痺れたように疼きを訴えた。

「いや、だ……っ、も、はなせ……っ…」

彼に向かって腰を突き出し、貪欲に性感を追う体が恨めしくて堪らない。自分がこんなにも快楽に弱いとは知らなかった。初めてなら刺激にいちいちびくつくのもわかるが、受け身のセックスに慣れないとはいえ、体を開かれる度に浅ましくなっている気がする。

「離すから、てんこも離してくれるかな」

「っ!」

唇は息を吸うのに精一杯で、代わりにと彼のものに手のひらで触れていたのだが、つい力が込もっていたらしい。ぱっと手を引っ込めて小さく謝り、火野の上から体ごと下りた。後ろから覆い被さってきた彼に耳を食まれ、剥き出しになった腰の丸みを撫でられればぴくんと肌がさざめく。

「疲れた? 少し休もうか」

過敏な体を気遣う囁きに慌ててかぶりを振る。
浅い呼吸、火照る耳、ぐったりとシーツに沈み込んだ肢体。自分から彼にあれこれするのがかなり堪えたようだ。緊張と疲労で今すぐ伏してしまいたいが、体の奥はずくずくと渇望を訴えている。

「いい、から…」

物欲しげな顔を見られないよう、肌触りのいい枕に突っ伏して。そっと続きを促せば、珍しく熱い手のひらが腿をぐいと割り開いてくる。

「ちょっと冷たいよ」

「んっ、んん……!」

さすがに唾液では潤いが足りない。ローションを絡めた指が窄まりを探る。うなじに何度となく口づけられ、しなやかな指が内部で踊る度に声が漏れ出る。馴染んだところで指が去っていくと、ひくひくと待ちかねる後孔に覚えのある質量が押し付けられた。腹の奥が頻脈に呼応するように震える。

「ゆっくりするから、痛かったら教えて」

「っあ、んあぁ……っ」

自らの口で慰めたものが、入口を目一杯に押し広げて侵入する。初めての時は、この挿入が最初で最後だと誓ったのに。みっちりと隘路を満たされる感覚は泣きたくなるほど鮮烈で、開かれる痛みも苦しみも全て、官能を揺さぶる刺激として脳に溶け出していく。
きっともう、肉体の悦びを知らぬ頃に戻れはしないのだろう。それでもいいと思えるほど、今は彼だけが欲しかった。


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