06

 答がはっきりしている教科ってのは勉強しやすいと思う。ゴールは決まっていて、いかに少ない手がかりで、いかにスマートにたどり着くか。それが数学だ。
 公式などにいたっては、極限まで無駄が省かれてあって、美しいとさえ思う。
「……城田って、意外と変わってるな。変態さんか」
「数学、教えてあげませんよ」
「あ、それは困る。悪い。怒るな」

 意外にも本神先輩は物分りが良い。ただ勉強するのが億劫だっただけで。
「先輩、移項の時は?」
 とんとん、と問題箇所を示して促すように聞いてみる。
「……符号を、逆にする?」
 自信が無いのか、少し語尾が疑問系に上ずっているが、正解だ。
「じゃあ、ここはどうなりますか?」
「あー、マイナスか」
「そうです。あとは、右辺に掛けたものを左辺にも掛けるの、忘れずに」
 こんなケアレスミスはあるが、公式などは基本的にすぐ覚えてくれるしありがたい。公式が使えないことには何も始まらない。
「じゃ、こっからここまでは解けるはずなんで、解いてください」
「んー」
 気の無い返事をしながら、シャープペンを握るがたいの良い不良。変な光景だなぁ、と思わずにいられない。

 勉強面も含め、本神一という人間は意外性の塊だった。
 まず、細かいことかもしれないが、字がとても綺麗だった。男らしく硬いけれど、基本を習ったような字をしている。それから、さっきキッチンに行ったところ、朝作ったであろう味噌汁がなべに残っていた。自炊は得意らしい。
 俺の「不良」に対する認識が、どんどん塗り換わる。ってかこの人って不良じゃないだろ実は。なんて思いながら。
 俺の聞き及んでいた本神一はこうである。
 1.やくざ相手に大立ち回りをして警察の厄介になった。2.隣の高校の不良集団を一人で全員病院送りにした3.孕ませた女子生徒は数知れず。
……などなど。
 (こんなん聞いてたら、そりゃ驚くよな。そのギャップに)
 不良がお勉強中。いっそこのミスマッチさが愛らしい。
「どうした、城田。ぼーっとして。終わったから丸付けろ」
「え、あ、すみません」
 気づくと目の前に先輩の顔。ちゃぶ台をはさんでいるからそんなに近くは無いはずなんだけど、じっと見つめられてしまって、困る。また睨んでいると勘違いされたくない。
「あ、そういや、どうして50位以内目指すんですか」
 ムリヤリ話題をそらして先輩の解答に目を落とした。

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