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 そして翌日、課題は何とか提出できたらしい。浮き立つ足でやってきた城田は、教室に残っていた俺に馬鹿なことを言いだした。

 頭いいくせに、それなりにしっかりしてるくせに、なんで変なとこでこんな間抜けなのか。元凶の俺に「お礼」なんて言うから、こうやってつけこまれるんだ。

 からかってキスするように仕向ければ、押し付けるようなキスをよこしてきた。こいつろくに女とキスしたこと無いんだろうなぁとわかるような、つたないキスだ。
「もっかい」
 俺がそう喋るだけで、上唇同士はわずかに触れあったまま擦れて、城田の顔は真っ赤になる。
 あーたまんねぇ。焦って泣きそうな眼、かわいい。
「な、もっかい」
 誘うように再度言うと、目をぎゅっと閉じて、また触れるだけの投げやりなキス。

 もう一度すれば解放してもらえるなんて思ったら、大間違いだ。

 その唇が離れる前に、応えるようにこちらからも唇をずらせば、アイツの唇が俺の唇をはさむような形になって、離れ際に、ちゅ、とわずかに湿った音がした。今更キスの音なんて慣れててもいいはずなのに、目の前の体は一瞬ぴくっとこわばる。セックスなしの穏やかなキスは初めてだから、緊張してるんだろうか。
「もっと」
 あぁ、からかってやりたい。
 お前、俺とキスしてるんだぞ。お前からキスしたんだぞ。って
「な」
 ねだるように駄目押しで、軽く服を引く。それで全部通じたのか、少しだけ城田の動きが積極的になる。技巧も何も無いキスなのに、なぜだかやたらと甘い。
「ん……」
 上唇、下唇、唇の端。ついばむようなキス。自分から夢中で口付けるくせに、恥ずかしそうに顔染めて、あーやばい。むりだ。

 ……悪いな城田。やっぱり帰ってから抱きつぶす。

 心の中で勝手に決定し、とりあえず今だけは深く舌を絡めたいのこらえ、その口付けに酔いしれた。

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