28

 俺のせいでアイツが色々大変ってのは、ちょっと考えればすぐわかることだ。事実、アイツが職員室で軍曹に絡まれて大変な課題押し付けられたってのは、副会長の丸山に聞いて知っていた。「わりぃことしたな」と思わないでもないが、こっちも事情が事情だからあいつにカテキョを止めてもらうわけにはいかない。それに、体をつまみ食いするのを止めるつもりもないし、結局俺は自己中心的だ。
 「あんたのせいで成績が下がった」なんて言い出したら、俺はどうするだろう。城田が俺の家に来る前に、そんなことをぼんやり考えていた。

 だが、城田は何も言わなかった。

 「俺も勉強します」とだけ。その理由も告げず。
 俺を責めるのが普通だろ、と元凶の俺でさえ思う。今更、俺が怖いんだろうか。もう二週間以上も経っていて、その間に何度も「変態」だの「スケベ」だの暴言吐いておいて、今更?
 きっちりといつもどおり俺に数学と物理を教えて、アイツは洋書を開いた。そして、とたんにゆがむ顔。どうやらこいつは英語が苦手らしい。理系教科で一番でありながら総合して成績優秀者に入ってないってことは、そんだけ文系教科が足を引っ張ってるってことだろうし、相当酷そうだ。
 いつも厳しい眼がさらに難しくなったり、困ったように潤んだりして、相当可愛かったからしばらくその百面相を眺めていたが、どうもこうも進んでる気配が無い。……しかたねーな、と俺は内心苦笑した。一生懸命なのを見るとつい甘やかしたくなる。それが矛盾だってのはわかってる。そもそも俺がカテキョになんて巻き込まなきゃ、こいつはこんな目には合わなかったんだからな。

 本を取り上げて英文を読んでやると、あいつはぽかんとアホみたいな顔で俺を見ていた。いつも凛々しいくらいの眼がきょとんとして、その馬鹿面が可愛い。
 一応申し訳ない気持ちもあったから、和訳してやろうといえば、なんと断られた。これには驚いた。馬鹿じゃねぇかと思った。俺に遠慮する必要がどこにあんだよ、とも。
 だが、おれの予想はてんで的外れ。あいつの眼はちゃんとまっすぐで、そこに恐縮や怯えはなく、むしろ何かに悔しがるような気配さえあって、「あぁ、意地か」と気づく。そりゃそうだ。こいつだってプライドがあるなら、簡単に一から十まで全部教えてもらうのは嫌だろう。城田はこんな可愛いくせに、肝心なところでは男らしい奴だ。

 体は重ねなかったが、その夜はやけにいい気分だった。

prev | 目次 | next

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -