短編 | ナノ


▼ Irene



「サソリや、お主はばれんたいんなるものを知っておるかの」
ナマエの言葉に怪訝そうな表情を浮かべたサソリ。何かをたくらんでいるなと朝からそわそわしていたヤツの方を見て、「一応知ってるが」と答えれば化け蜘蛛は形の良い眉をあげ、顎を撫で擦り不敵に笑い下半身の細い足を擦り合わせた。
「そうかそうか、あのてれび…とかいう箱でみたのじゃが」
昨今は男からも渡すそうじゃないか。ここは一つ我にも献上してくれて構わんのじゃぞ。
ちょうど我もちょこれーとという物が食べたかったんじゃ。
未知の甘味を想像しだらしなく頬を緩ませているナマエに金だけ渡して一人で行かせようとも考えたがまあたまには付き合ってやってもいいか。
「変化解くなよ」
「流石サソリ、わかっておるのう!」
即座に二本の足を作り蜘蛛の腹を消したナマエが小さなサソリに抱きついてはねた。

「サソリ、このけえき苦いぞ……」
「こっちに任せるからだ」
オレが甘いの好きじゃねえのわかってるくせに何言ってんだ。文句を垂れるナマエにそう言ってやれば完全に敗北したと悟った化け蜘蛛はぐぬぬと口を噤む。
ビターなチョコケーキに甘いココアとチョコづくめのテーブルを前にし蜘蛛の癖に蝶のようにストローで甘いココアを吸い出す彼女に連れのいる男どもは自分の女にばれないように視線を注いでいる。
娼婦の様で居ながら計算していない時ですらこれだからな……。
自分に嗅覚というモンがなくて助かったぜと手を伸ばし、彼女の目の前に置かれたフォークを掴みサクリとスポンジに銀のそれを降ろした。
「ほら、さっさと食っちまえ」
頬杖をつき彼女の目の前に一口分を差し出してやれば先ほどまで苦いと文句を言っていたナマエの目がキラキラと輝き人間より多少発達した白い犬歯を見せ嬉しそうに口の中へと閉じ込めていた。


/ →
back



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -