宝石とさよなら | ナノ


▼ 84



私がこの世界に戻って来て半年がたった。
世間ではクリスマスだの忘年会だのでにぎわっていたが、私はやっぱり仕事をしていた。
仕事が好きだからでもワーカーホリックだったからでもない。忘れたかったのだ、自分の意志ではなかったにしろ中途半端に投げ出して帰ってきてしまったことを。
生きていたことは嬉しかったが、それ以上のものはなかった。もう二度と彼らの顔を見れないと思うとひどく悲しかった。
いろいろと上の空になってしまった自分に同僚たちは触れないでくれた。たまに部長に喝を入れられたが仕事だけは普通にこなしていた為だろう。
小さな会社だが何とも優しい同僚たちだと思う。


イルミネーションのまばゆい商店街を通り、ビールの缶を2本下げて、帰路につく。
誰もいない自宅に只今と声を掛ける、当たり前だが帰ってくる声はない。鍵をかけ、冷たい部屋に脱ぎかけたコートとマフラーを再び着用した。寒すぎる。
湯を沸かし緑茶を入れ一気飲みすると、買ってきた惣菜をビールをローテーブルへと広げた。
ご飯を作る気力がない、一人なら食べたいときに作ればいい、その気楽さが心地悪くて半年ずっともやもやと渦巻いていた。
元気にしててくれればいいが便りすら送れないのだ。同じ世界なら、給料貯めて会いに行くこともできるんだけど。


「私こんな性格じゃなかったはずなんだけど」
いつの間にか、甘えてもらえることが嬉しくなってたんだろうな。
ようやく暖房のきいてきた部屋で、洗って保存しておいたサンダルを撫でビール缶を傾けた。

温くなってきたら眠くなって来てしまった。ああこれ明日喉痛めるな。



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