宝石とさよなら | ナノ


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予感はしていた、あの人ならきっとこうすると。
減っていた暗部という存在が最近増えていると我愛羅君がぽろっと零したのは、きっとこれの為だったのだろう。
道具としての存在だけを求められていたのだからごく普通に至る考えだと思う。つまり用済みだ。
命は惜しいし、まだまだ生きていたかったが、きっとその時は我愛羅君が傷つくことになる。
他里に逃げる気もなかったが、あの人は私を最後まで信用してなかったという事だろう。少し悲しいが仕方ないことだ。
心残りは我愛羅君が父親に特攻させられて殺されないかという事だが、その辺はこのひと月で考えられないほど仲良くなったテマリちゃんとカンクロウ君が何とかしてくれるはずだ。私は二人を信じることにした。
この世界ではそれが普通なんだろうし、私は異物。向けられた刃の数にたじろいだが、無駄な動きかとあげかけた手を降ろした。


「ダメじゃないですか、これから殺す人の前で泣いちゃ」

キンコウさんにヤリスマルさん、ぴたりと2人を言い当てれば垂らした顔布が動揺し揺れた。
こんなにわかりやすくて良いんですか、忍は感情がばれるのはいけないんでしょう。
我愛羅君のおかげで黒光りするクナイを当てられても動揺しない程度の根性は出来てしまった。

「課題、全部終わりました。私が死んだあとも褒めてあげてくださいね」
我愛羅君を、テマリちゃんを、カンクロウ君を頼みます。
コクコクと大きく頷くキンコウさん、顔布が濡れてしまっているが息は大丈夫なのかと、今置かれている状況のすべてをあきらめた私は他人事のように考えていた。
ただ、ここじゃさっき部屋に行ったときに寝ていた我愛羅君を起こしかねない。
軽めにかけてやったから風邪を引くことはないだろう、まあ出来るだけ睡眠はとらせてやりたい親心という奴だ。
「外でお願いします」包丁だけ危ないので洗って低位置に戻し、私は玄関へと向かった。



ザクリと切られた箇所が熱を持ち始めた。
いっそひとおもいにやってほしかったが、2人よりさらに顔を隠した男が「風影様が見てますので」と、黙り印を組み始めた2人の代わりに返事をする。
砂の上に倒れた私がああそう、なんて返事を返せるほどの気力はなく、ただぼうっと粗い呼吸をしていた。


「ナマエ!」

ああ、ほら早くしないから我愛羅君が起きてきちゃったじゃない。
いない間に消えることが出来れば、我愛羅君のダメージは少なかったかもしれないのに。
元の世界に帰ったんだってすることも出来ただろうに、みんな馬鹿だなぁ。


駆け寄ってきた我愛羅君を残った力を振り絞って吠える。
ここで我愛羅君が暴れてしまえばせっかく築きあげた里での信頼が一気におじゃんになってしまう。

「約束は守りなさい」
貴方ならできるわ、私の自慢の息子だもの。鼻水を垂らしわめく我愛羅君に微笑んでやる。ああ、最後なのに可愛い顔が台無しじゃないの。
「愛してたよ我愛羅君」そうつぶやいた私の声は大岩の空気を切る音にかき消されて彼の耳に入ることはなかった。


私はうまく母親が出来ただろうか。


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