宝石とさよなら | ナノ


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「もはや尋ねられるのも煩わしいと思うけどナマエ、来るんだ?」
ここ数日のうちに見知った人々から再三言われてきた言葉をチクマに口にされ、少しげんなりとした様子でナマエは首を縦に振った。
まあ彼女は人一倍情報を求むから、張本人が目の前にいるなら確認がてら聞くだろうと予測はしていたけども……。
「後味が悪いじゃない?」
「もしそれで帰れなくなった時のことは考えなかったのかい?」
「考えたよ、例えばマタンさんが無事じゃなかった場合とか」
期限については言われたことがなかったから考えはしなかったが術をかけた人間でないと解けないだなんてのは何度も耳にしている。
初めに保護されたとき――術をかけたかは知らないけれど――同じところにいたというヤリスマルさんと金術を使用することを画策し実行した羅砂さん、そして協力者の大蛇丸がいなくなった今、時空間忍術を解けるのはマタンさんしかいない。
彼が不慮の事故で亡くなってしまったら一生私は元の世界に帰れないのだ。
そんなこと、彼女が起きるまでに何度も何度も反芻したし秤にかけた。
チャクラとかいう超能力染みたものが使えてしまう、まるで物語みたいな今いる世界と、自分の家族と友達を天秤にかけたのだ。

目の前で赤く染まり地に臥せっていく数多の人間だったものを思い出し、グロッキーになりながらもここでの暮らしを振り返ってきた。
今いる場所がただの夢の中ならどんなにいいか。頬を抓れども冷めることのない平和でない非日常な世界が、自分にはとっくの昔に日常になってしまっていたのだ。
どこまでもリアルなその抜け殻のなかに、彼らが、“私の家族”が混ざってしまうことだけは耐えられなかったのだ。


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