宝石とさよなら | ナノ


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任務の時間が迫り、サソリの元から一旦帰宅したカンクロウが素早く傀儡のメンテナンスをしていれば、自室のアトリエのドアが粉砕するほど大きな音を立てて開いた。
そろそろ蝶番が馬鹿になるじゃんと一言姉に文句を言ってやろうと目を吊り上げれば同らや全速力で何かから逃げて来たらしいテマリが急いでドアを閉めカンクロウの机の下に隠れた。
傀儡のパーツが転がってない時だったから良かったものの、そろそろ自由奔放すぎる姉に対し堪忍袋の尾をキレるどころか粉砕させてもいいのではないだろうかと今しがた山椒魚をしまいこんだ巻物に八つ当たりしそうになる拳を必死に抑え落ち着かせる。
……そう、怒っていてはこの大雑把な姉と一見聞き分けがいい気がするがその実一番頑固な弟と話なんてできないと過去の自分が必死にカンクロウに囁き賭け、深く深呼吸をして怒りを少しばかり霧散させたカンクロウの背後で先ほどと全く変わりない音量でドアが開け放たれた。
上の方の蝶番が外れたことを確認し、とうとう涙をちょちょぎらせるカンクロウに半壊させた張本人である我愛羅が関係ないとばかりにカンクロウを呼んだ。
「……ここにテマリは来ているな?」
「二人とも術の規模がいちいちでかいんだから暴れるなら外行ってほしいじゃん」
我愛羅の確信じみた問いかけにノーコメントを貫きつつこれ以上荒らすなと牽制するカンクロウ。
二人が離れに帰った後で傀儡造形師として憧れであり尊敬していた赤砂のサソリと雑談し、その時に貰えた傀儡用のデータがバラバラになったらそれこそ自殺ものである。
これ以上荒らすならオレもキレると三つ巴宣言をすれば、丸くなった我愛羅には流石に無関係の人間を巻き込むのは気が引けたらしい。一つ深くため息を零せば先ほどまで一緒にいたのか我愛羅を追いかけてきたらしいナマエがげほげほと咽ながら我愛羅を止めるために喉を震わせる。
「我愛羅君、夜、に!また作ってあげる、から!我愛羅君の、為にっ、作るから!砂縛柩だめ!絶対!」
「……ナマエに免じて今回は見逃す。だが次勝手に食べたらこれだ、……とテマリに伝えておいてくれ」
ぎろりと奥を一つ睨み、カンクロウに向け手を突きだし拳の中からいつの間にか集めていたらしい砂をぱらぱらと落とす。
部屋の掃除が大変だからそれもやめろと言いかけある程度の高さまで落ちたら霧散し瓢箪の中に戻していく我愛羅に伝えとくじゃんと頷いた。


「……行ったぞ、一体我愛羅に何したんだよテマリ」
バタンと真ん中と下の蝶番のみで支えるドアを閉め、廊下と遮断した空間を作り出したカンクロウが微動だにせず息を殺していたテマリを呼びだす。
あんな切れてるの木の葉以来だぞと昔の……13歳の弟を思いだしいつもの黒頭巾を頭にかぶせ隈取を指で描きながら問えば、はいずり出てきたテマリがいやぁと頭を掻き、口を開いた。

「……っていうちょっとした悪戯心だったんだ……。卵焼きで大丈夫だったから最後にから揚げをもう一つだな……」
「馬鹿じゃん?てか何でそんな無謀なことを。でナマエの卵焼きとから揚げどうだった?」
「美味かった」
そう一言で答え、小骨をひらひら揺らすテマリに机の下でゆったり堪能してんじゃねえよと思わず突っ込んだカンクロウはすかさず突っ込みを入れる。
その時ピリリと腕に走った痛みに顔を顰めて箇所を擦ると一瞬だけ歪んだその表情を見ていたらしいカンクロウが怪我かと問うがテマリはそれに笑って答えた。
少し赤く腫れているのは先ほどのちょっとした騒動で「食べ物の恨み」だとナマエから卵焼きを突っ込まれながら我愛羅がつねってきたものである。
一度目はその程度で済んだのかとその場面を想像し、でもやはり相当抑えたのだろうと悪いと思っていなそうな姉を見、カンクロウも呆れしか持てずに嘆息し肩を竦める。
うちの長女はたまにこういうお茶目なところがあるが親しくとも人を選ぶべきだと思う。ましてやナマエが我愛羅にあげた弁当なんて……。
むしろその程度で済んだことを喜ぶべきだと主張しようと口を開いたカンクロウにどんどん分が悪くなっていることを感じ取ったテマリが顔の前に手をかざしそれを止めた。
「まあそういうことで今度私達だけでパーティを開くことになった、お前も有給届けを出しとけ」
「意味わからないじゃん!?」
何がどうしてそうなったんだとせっかく被せ整えた頭巾を床に叩きつけカンクロウは意思疎通の難しい兄弟の存在を嘆いた。


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