宝石とさよなら | ナノ


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サソリがいるから大丈夫だとは思うが……万が一のこともある。
ショックを受けてはいないだろうか、傷つけられてはいないだろうかと大名の部屋にチクマと個別訪問し終え急ぎ工房へ向かっていた。
ナマエの気合の入った過剰な接待っぷりにも呆れていたがそれを許してしまった自分にも怒りを覚えていた。

工房の主はチヨバア様から代変わりし孫のサソリになったのだが、両方に少なからず因縁のある我愛羅ではあったものの二人への苦手意識はほぼ掻き消えていた。
それもナマエが潤滑剤代わりになって仲を取り持ってくれたからだと我愛羅は考えている。ちなみにチヨバアもサソリも生粋の砂の人間だがナマエを大切に想っていることは会話をしていて気づいたから我愛羅の二人に対する態度もそれなりに緩和した。
本人は否定するが良くも悪くもその人誑しの能力は亀裂が入っていた砂の人間たちの合間を縫うように浸透し方々を寄せ繋げて行った。
だからこそ我愛羅はナマエを自然体のままにし自分達では一生かけても成し得ないであろう回路網を作り上げて行ってもらっていたのだが、そろそろ潮時らしい。
ナマエが傷つくくらいならそんなものゴミとまとめて捨ててやると一つ深呼吸をし工房の戸を叩いた。

「お?お帰り我愛羅君」
拍子抜けしてしまった。いつも通りである。
整理した工房の一角に置いたソファーでだらしなく寝転んでいたナマエが片腕をあげた。
疲労は見えるものの噂の暴力は振るわれていないようで肌は綺麗なままだ。ただ一点、髪が濡れているのが気になる。
「……シャワーを浴びたのか?」
「お酒臭かったからね、あと私の担当変なお香纏わせてて臭かったし」
まだ臭うかなと二の腕をあげ鼻をすんと鳴らすナマエにそうじゃなくてと言いかけその後にどう続かせればいいのだと黙り込んでしまった。
この後は確実にセクシャルハラスメント的な部分に該当してしまうのではないか……?そう妙なところで思い悩み始めた我愛羅の横からサソリが声をかけた。

「残念だがテメぇが危惧していたことは何も起こってねぇよ」
思っていた以上にコイツはそう言った応対に慣れていたし対策も立ててたみてぇだぜと親指でナマエの方を指すサソリにひっどーいと間延びした不満の声が飛んだ。
「そうか、ならいいんだ。だが髪はちゃんと拭け」
「はーい、あー……ホント我愛羅君が普通の人で良かったわ」
「何の話だ?」
数秒内容を話すべきか悩んでいたようだが結局何でもないと答え、疲れの方が勝るのかわしわしと雑な手つきで手を動かすナマエからタオルを奪い、手櫛で整えつつ拭いてやる。

「へっへっへ、我愛羅君優しいし普通だし私好きよ」
「……そうか」
何か含まれている気がして素直に喜べないと顔を顰める我愛羅とだらけるナマエに「邪魔だ、惚気はオレのいないところでやれ」とサソリが毒づいた。


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