宝石とさよなら | ナノ


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ちょっと怪しい目で見られているのは解っていたんだけれどあえて気付いていないフリをし隣の子と交代した後ものんきに接待を続ける。
我愛羅君から送られてくる注意喚起の視線が鋭くてなかなかに堪えたがそれも気付かなかったふりをする。
相手は忍ではなく限りなく一般人に近い金持ちだ、大名という肩書の。こういう時には彼のようなトップの者がいる方が逃げ道がなくなるので一人の方が都合がいい、まあ私の場合はなんだけども。

知り合いはこの後皆忍として活動を始める為にお開きとなった会場から一人速歩で更衣室へ戻る。
昼間手伝う事があるならと彼らに言ったのだが、忍として正式な認定を貰っていない私が動けば少々問題になる物なのだとやんわり諭され大人しくその意向に従い、我愛羅君たちが選んだというドレスを慎重に脱ぎしわにならないようにしまう。
この歳で「まっすぐ帰れ」なんて小学生に言うような言葉を皆からかけられてしまったが私も面倒になりそうなことは肌で感じている為大人しく頷いておいた……のだが。
「そこの。お主は菫色の異装を纏っておった娘だな?」
残業……確定だな。なんて吐いた溜息を気付かれないように大気へ溶かしこみ営業スマイルを貼り付けた。


そろそろ終わる頃合いだなと砂隠れを網羅しているサソリは人の目に映らないよう死角を伝い、闇に紛れて目的の旅館へ駆けつけた。
……とはいっても走ったりなどせずゆったりと進んできたのだが。
からかい甲斐のある風影の小僧と眼鏡女に頼まれた内容が里を抜けていた自分でも聞いた覚えのある女癖の悪さと行為中の凶暴性という悪評を持つ男だった為にいやいやながら迎えに来たのであった。
男がただ犯るだけなら過剰な接待をし気を引いたナマエの自業自得だと放置したが、素体が傷つくとなれば放置など出来なかった。
いくら細胞の複製で傷が治るからと言ってもすべての部位がそうかまでは解らない。知らない間に直らない傷を付けられ可動に支障をきたすのはいくら術が珍しく魅力的だろうが困るのだ。
旅館の従業員にいざというときの為にチクマから渡されている許可証を見せナマエを探す。
自分がいた時は離れを使っていたのだがあの二人の根城となっている為にわざわざ金を使っているらしい。砂一番の高級旅館の部屋は広く数も多かった。
チャクラを練ったところで自分に感知能力なんてものはないから地道に部屋の前に来て気配を探る。
奥の方、人のあまり来ない角部屋にてようやく見知った女の気配を感じ話しかけるタイミングを計る。
忍でないあれは妙なところで恥ずかしがる。そろそろ新作づくりにあいつの能力が必要なのに機嫌を損ねてスケジュールを遅らせたくないので慎重だった。
……そういう事で耳を澄ませるのだが中から一切争うような声もすすり泣くような声も無い。男の趣味だという肌を打つ激しい音も聞こえない。
送られてくるのは何か話をするような声だけだった。
あまり長居していても仕方がないと戸を横にスライドさせたサソリは己の目に入ってきた光景に、思わず「ほう?」と声をあげていた。


大名の頬を潰す様に押し上げていた片腕を降ろし、他人に見つかったことで狼狽する巨体を見送ったナマエに「小僧が見てなくてよかったなぁ?」とからかいを入れる。
スッと細められていたナマエの目は旅館の長い廊下を逃げ、角を曲がった大名が見えなくなった途端いつものように丸く戻りサソリの言葉に不満そうに口を尖らせた。
「良かったな?“無事”みてぇじゃねえか」
「私だってそっちの覚悟と対策を練っていたわよ……でもまさか“叱ってほしい”だなんて言われるとは思わないじゃない……」
タンゲもそうだけど大名ってみんなそうなの?と妙なことに付き合わされたことによる疲労と倦怠感で空を仰いだナマエと工房に向かう。
ナマエの問いに知らねえとサソリは答えるが、多分そんなこと誰一人として解らないだろう。
プライドだけは人一倍高い大名だ。先ほどの男のように自分が叩かれるのが好きだという事を隠そうとあえて自らの悪評を広めるような人間は忍にはいない。まあそういう性癖なら戦場での任務を受けていれば満たされるのだろうが。
シャワー借りていいかと問うナマエに家出していた時勝手に使っていただろと突っ込み我愛羅が帰ってくるまでに終わらせろよと答えた。


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