宝石とさよなら | ナノ


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閉会式を終えた我愛羅君達が大名と共に入ってきる予定の高級旅館の大広間でチクマちゃんが用意した遊女の方に指導を受ける。
遊女と言っても遊郭で花魁を…とかそういうものではなくどちらかというとキャバ嬢みたいなかわいい女の子2名である。
「手前のお酒が空になったらぁ」等の付け焼刃の簡単なものではあるがこれがあるだけで随分違うらしい。
何しろ花魁は高級になればなるほど“何もしない”事を良しとされる為に見栄っ張りの彼らはされることに慣れていないのだ。
つまり持ち上げまくって落とし込めと、そういう事ですねチクマちゃん……。そう隣に並んで同じように彼女たちの言葉を聞き知識として取り込んでいるチクマちゃんを見れば期待してるよと口パクで返された。
部長のお供で何故か挨拶とかに行ったことあるから別にいいですけどぉ……!期待はしないでくださいませんかねぇ!


我愛羅君が暗記したらしい挨拶を棒読みで読み切った。随分長かったけど抑揚一つもなく読み切るのは逆にすごいわと妙なところで感心してしまった。
肉料理が中心ではあるものの、伊勢海老っぽいものや鯛の生け作りのような物など砂では食べられないものまでずらりと並んだ卓上を囲むように座った砂の大名たちがそれを合図にお猪口に手を伸ばした為、あらかじめ後ろにセットしていた私たちがすかさず高級酒を注ぎにかかる。
トットッ…とゆらりと波打つお酒を口にした大名に私はお疲れ様ですぅと猫なで声で甘えにかかる。一瞬固まったもののじっとりと舐めまわすような視線を我慢し私はたるんだ腹を持つ男に擦り寄った。
よっしゃ第一関門突破ァ!スーツしか来たことなかったからこういうドレスめちゃくちゃ不安だったんだけど吐き気を催されなかったことでそれなりにやる気が出てきましたよ私は!
少し心配そうにこちらを見ていたチクマちゃんとマジュちゃんも私のスイッチが入ったのがわかったらしく自身の担当である大名に取り掛かる。
そう、これは仕事なのだ。お金を落としてもらうための接待である。こうでもしないとうちの国の大名はとんでもなく渋ると言う事を再三聞かせてもらっているからこそ頑張らなくてはならないのだ。
ならば、過剰サービスしてやろうではないか!部長見ててくださいこれがあなたのおかげで接待に慣れた女の末路です!……泣きそう。
互いの存在に慣れだしてきた頃に大名が肩に腕を回してきたが、それを払うことなくひらりと揺れる袖を抑えながら箸で刺身を摘まみ男の口に運んだ。
「これすごくおいしいんですよ、ハイあーん」
あーんと脂ぎった顔を寄せ口を開けてくる大名に不自然にならないよう気を付けながら張り付けた笑顔で応対する。
私だってどうせやるならもう少し小奇麗な方が良いんだけど私欲にばかり傾倒しているからか脂肪で弛んでいる者が半数を占めているのだからたまったもんじゃない。節制して。
そう必死に我慢しつつ今度は大名から運ばれてくる料理を小さく口を開いて上品に頂く。最初はくノ一風情がという態度だったものの緩和した今では見る影もなかった。
どうやら気に入られたらしく、遊びは専ら花魁だと豪語する男が彼女らへ貢ぐかのようにせっせと私の世話を焼きはじめた。
それに断ることなく応え受け入れつつ手と表情筋は休めない。水商売めっちゃ疲れるなと脳裏で辟易しながら少しずつお金の話にシフトを始めた私は斜め向かいからの熱い視線に気付いて落としていた目尻をあげ先へちらりと視線を向けた。
我愛羅君なんでこっち見てんの怖いんだけど。
瞬きすらせずに、でもちゃんと仕事だからか口を動かし支援の話をしている我愛羅君が怖すぎるので気付かないふりをすることにした。


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