宝石とさよなら | ナノ


▼ 382



造形師ともなればやはり絵心も飛び抜けるものなのか。
サソリにラブドール……いや、偽人傀儡の制作を止めようと傍に寄れば視界に入ってきた女性の図にナマエは言葉を失っていた。


最初に餌を与えておけば簡単にこちら側につくだろうことはわかっていたから試作品として作ってやろうとただそれだけの理由だった。
世間では死んでいることにされており、さらに無一文となった今、それなりの材料はナマエに頼まないと手に入らない、それも頼めばスムーズに手に入るわけでもなくまずナマエと交渉からしなければならなかった。
それが億劫だったからこそ一時の我慢でのちの全てを楽にできるならばと…こちら側に取り込もうと最後に見た祖母の姿を細やかに紙に記していた。

……まあ、昔から自分の美の感覚は一般人とは違っていたのも理由の一つに挙げていいかもしれない。
偶に相方が別のメンバーとの任務を言い渡されればフリーになった同士で組むこともあり、互いに古参な為にそれなりに任務を共にしてきたイタチなどは確かに一般的な感覚ならば美と言えよう。
だがオレは甘美な強さと朽ちぬしぶとさこそを美だと考えていた、その点ならば最近の立て続けの任務で体を壊したらしいイタチよりはどれだけ皮がたるんでいようがババアの方が遥かに美しい。
どうせ手がけるなら自分の感覚に合ったもので打算的な考えが混ざり選ばれたのは祖母だっただけなのだ。
それに知らないだろうがコレは寝言でたまに祖母の事を呼ぶ。起きれば忘れてケロッとしているが深層心理ではまだ乳離れできない子供だった。帰れるかわからない元の世界の親の姿を重ねているのかもしれないが。

「オレの父と母、回収したんだろ?シリーズにするならババアも入れてやらねえとな……」
せっかく現世に留まれたのにあの世で寂しがってるババアに連れてかれたんじゃ元も子もねえ。
始終自分を懐かしみ懺悔し愛しさを込めて見ていた祖母を脳裏に描き視線を向けずに筆を走らせていればぽたりと塔の固い床に水音が響く。

「……おい、ナマエ」
「う、うう…うぅぅぁぁ……」
こげ茶が滲み目元を両手で覆って醜く顔を歪めだしたナマエに一つ舌打ちをしテーブルの端に濡れて困るものをどけると「チヨ様、チヨ様」とババアの名を狂った絡繰りのように口にするナマエを引き寄せて膝の上に乗せてやった。
身長がほぼ一緒だからすわりが悪いようだが、それでもされるがままの女に肩も貸してやり背中を叩きあやす。

今の砂で唯一「自分を元の世界へ帰してやる」とナマエに投げた男は作り物の…体温のない身体だったが、今の一瞬だけほのかに暖かさを感じたのである。
二度目のみっともない泣きべそ顔を見られているがそんなことはどうでも良かった。この男は恩師と同じ様にささやかな優しさを見せてくる。
それが懐かしさや愛しさをせき立て、最後に万が一戻ることがかなわなかったときの不安を連れて来たのであった。

どうして自分がそういう行動に出ているのか若干混乱しながらも、サソリはしっとりと湿り気を帯びだした左肩に目の前で慟哭する女へ洗濯を押し付けようとそれだけを考えた。



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