宝石とさよなら | ナノ


▼ 374




家の中がこんなにも暗いとは思わなかった、随分と長く使ってなかったような気がする。
家具や床にはうっすら埃が積もっており侵入者も家人もいなかったことを主張している。
ずっと昔、岩に潰されかけたナマエが一度だけ自分に向かって怒ったがあれとはずっと別種の……。

「……勝手に使うじゃん」
そう言ってカンクロウは我愛羅のわきをくぐり台所へと向かっていった。テマリも居心地悪そうな様子で玄関のカギを閉めた後我愛羅の肩を叩きリビングへと歩みを促す。
すとんと中空を見つめたまま馴染みのある座り心地のソファーの端に癖で腰かけてしまった。
テマリは自分たちが遊びに来たときの…我愛羅の正面に腰をおろし、カンクロウもまた自分の定位置となっている一人用ソファーの前に淹れてきた茶を置き、座る。
テーブルの上に三つの湯呑みしか置かれていないことで初めてきちんと視線を合わせた我愛羅の口からは幽鬼のような声色で「ナマエの分は」と出てきた。
それに対し反応を出来ずに目の前で揺らぐ緑に視線を落とせば「ああ……」と呟いた我愛羅が額をテーブルに打ち付けた。無意識のうちに……隣に、ナマエの存在を願ってしまっていたようだ。
いや、打ちつけたというよりは前のめりになった勢いで殴打しただけなのだが、鈍く大きく響いたその音に二人は思わず肩をビクつかせ心配そうにこちらを覗き込むので右手をあげそれに無事だと応える。

「何から駄目だったのかが分からない」
ぱたん。肘を軸にして前方におろした右手にピリリとした痛みが走る。痺れはすれどもこの痛みはもうナマエと共有できることはない。
浅ましくも恐ろしいまでに歪んでしまった我愛羅の思慕を拒否したナマエを思いだしてはとめどなくあふれ出るこれをどうして止めることが出来よう。
誰も教えてくれず誰もとめてくれず、肥大化したエゴの塊は我愛羅という器に沈殿し混ざり合いいつしか人格そのものを形成するまでになっていた。
そもそもあの時我愛羅は自分の知らない間に知らない人間とナマエが一緒に過ごしていたことに青ざめたのだが、自分が指摘したことで飛び火し大火事どころか全焼してしまったのだという事に気付き己の行動を悔いる。
あの場で喧嘩してしまったものの自分が緊急会議なんて起こさずチクマに聞きに行けばよかったのだ。
……まあ、衝動的に行動を起こしてしまったし、里で見かけない人間と話をしていたことでナマエに危険が迫っているとかを考えたわけでなく、つまりはただの嫉妬なのだが。

「……っ、ぉえ」
「オイ我愛羅トイレ行けよ、ここで吐くな!」
この絨毯普通にクリーニング出来ないんだからなと叫びながら慌てて我愛羅を引きずり引っ張っていくカンクロウが足でドアをあけ出て行ったのを見ながらテマリはずず…とカンクロウが淹れてくれたお茶を啜りナマエに嫌われたという恐怖から震える手を必死に抑えていた。


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