宝石とさよなら | ナノ


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二人の頭を叩くため丸めた資料を伸ばし、マジュとの打ち合わせを済ませたナマエはその足で例の釣堀へと向かった。
明後日まで時間はあるのだし空いている時間は有効に使わねばなるまい。少し前に頭を押さえた兄弟がシュデンに促され出て行ったのを思い出してしまいくすりと笑いをこぼしてしまった。
子供の時はかなり怯えていたものの溝は確実に埋まって来ていた。
ちょっと力が強すぎるため喧嘩が始まる前に留めなければならないが、くだらないことで始まりかけていたにらみ合いは自分の良く知る兄弟喧嘩と変わらなかった。
安堵が顔に出てしまっていたのかチヨが角を曲がった瞬間に嗾けてきた傀儡を悲鳴をあげながら避けるナマエに情けない顔だの緩みきってるだのと叱咤した。

「す、すみません」
謝る私に今の時点で3回は殺しているとカウントするチヨ様に冷や汗を吹き出しつつ急いでチクマちゃんからあのまま譲ってもらったクナイを取り出したがそれをしまえと人差し指を揺らすチヨ様に首を傾げつつ従う。
合わせをするわけじゃないのかと考える私の耳にキンコウの術をどれだけ知っているんだと片膝を立てたまま座るチヨ様が問いかけた。
「ええと……、3つだけですかね?砂と水と電流っぽいやつ」
「何だ、全部見てる事は見ているのか」
なら話が早いと片腕をあげこちらに来いと呼ぶチヨ様の傍へと駆けて行く。
エビゾウ様はやはり関心ないとばかりに釣りに没頭していたが構わずチヨ様は彼に釣り竿を任せると私のポーチから手帳と万年筆を抜き取り地面へと広げた。
掏られたと苦い顔をする私をチヨ様が座る様に指示し、手帳にインクを滑らせていった。

「そもそもキンコウは下忍レベル以外の術だとその三つしか使えん」
さらに形態変化が不得意だったから多量のチャクラを消費しどうにか形にしていたがまあこのままじゃ羅砂の目にもとまることはなかった。
性質変化を3つ使える奴なんてその辺にごろごろいたし、術の大きさや精度を指定できない不器用さは大きな枷となる。
あやつは元々一人だったし稼いで生き残るためには極めることが必要だったわけだが、アカデミー時代ですでに無理だと悟ったらしく別の修行をしておった。
「それが、術を繰り出す速さだ」
マタン達から話は聞いたがキンコウに体を渡しているときも一応記憶はあるだろう?
確認するように問うチヨにナマエは頷き肯定する。確かに溶岩の下に固められてしまうエグイ技の一部始終は記憶にある。
ただあれを見たのは一度だけで、実際のところは地中の溶岩を呼びだしたのだろうと思っていたのだ。
だがそれを否定し首を振るチヨの口から「術が術として決定しないうちに次の術を出し、表で性質を変えたのだ」と言葉が吐き出された。

当時守鶴というバケモノをどうにかできないかと読み漁っていた本にも、病院で暇だからと読んでいた本にもそんな例は書いていなかった。
基礎だけは読み漁っていたので素直に納得できず、不可能だと否定しかけたナマエに「それでもあいつは出来た、それだけだ」とギャハと独特な笑い声をあげた。
「まあおかげで羅砂の目に留まり、幼馴染のオイラク一家から施しを受けなければ生きていけないだろう先の未来から脱却できた」
それはあいつ自身の強くなりたいという願望があったからだろうとチヨは語る。
一人身だった自分に良くしてくれた幼馴染のオイラクとその一家を守りたかったらしい。それだけの為に死に物狂いで修業したというのだ、キンコウは。

「まあ昔話を長々としていても仕方がない、とにかくその修行中に性質を変えていくチャクラを見て羅砂がヤリスマルをキンコウの指導に付けた」
ワシらの育てた下が認め風影に就任していた羅砂だ、何か期待をしていたんだろうな。
そのころにはすでに引退し相談役の座に鎮座していたワシらの前でキンコウは術を披露した。

「ちょうどこの場所だな」
十年以上昔の話なのにはっきりと脳裏に当時の情景が浮かんだらしく、目を細めたチヨ様が私の足元を指さす。
あえてその場所に自分を座らせたらしい。指先を追い地面へ視線を投げ、再びチヨ様の双眸へと顔をあげた私に「最終的にそれは水晶の塊となった」と目を閉じた。


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