宝石とさよなら | ナノ


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「マジュ」
ナマエを正面に立たせチクマは編みこみの方を呼んだ。
流石にこの隊のチームメイトだからか彼女もまた「へいリーダー!」と景気良く返し、自身に宛がわれていた机の引き出しの中から一枚の紙を取り出し投げる。
一枚だけなはずなのに異様に殺傷能力が高く、ナマエの横髪を数本持っていくと引き出しをあけたチクマの目の前へと刺さるように落ちて行った。
吃驚し開いた口が塞がらずあほ面を晒すナマエに引き出しの中を漁っていたチクマが木製の机に音を立てて巻物を置く。
「ナマエ、早速だけど本日の分です!」
「は、へ…へい!」
思わず背筋を伸ばしてしまったナマエに苦笑し、一連の流れが嘘のように柔らかい声で「そんなに固くならないでよー」とチクマはひらひら紙を揺らした。

「これ、巻物にエビゾウ様と姉のチヨ様のサイン貰ってきてほしいの」
もうすぐお昼だけど今なら二人ともまだ釣堀にいると思うからさ。そう言ってチクマが用意していたらしいポーチに紙と巻物を詰めるとナマエへと手渡す。
あまりの勢いに硬直していたナマエも手の平へと渡ったポーチの重さにはっと我に返り、「あ、はい行ってきます」と先ほど通ったばかりのドアを再び開けた。

まあ夜までに帰って来てくれればいいからねぇと駆けて出て行った背中に声をかけるが届いていたかは定かではない。
ふむ、まあいいだろう。エビゾウ様のところに挨拶もついでに出来るだろうし。
手を振って見送ったマジュと反対側で「大丈夫ですかねあれ…」とオウメイが不安そうに唸った。

「……先ほどナマエとすれ違ったが」
こちらに連れて来たばかりなのに書類整理をさせてるわけではない。一体あいつに何をさせようとしているんだ?
我愛羅のところから書類の束を運んできたテッカンが半開きのドアから覗き込むように入り尋ねる。
「相談役のところに行かせた、書類サインだし大丈夫でしょ」
「おいおいおい」
初っ端からたちの悪い……、ちょっと酷過ぎやしないだろうか?
そう異見を述べるテッカンに「忍の仕事場に配属された時点で酷もへったくれもないし」とチクマは笑った。

我愛羅は甘いのだ。ナマエが消えるのが怖いのかいつまでもお守りを付けていようとする。
ただ、人ひとりを庇いながら何かを出来るわけがないのは彼女もわかっているから彼女は離れようとはしてた。それでマタンが相談されたのだ。
使えない部下を置いても利益が生まれるわけがない。知りたい情報はこっちが接触して聞けばいいだけだし捨て置いても困る事なんてないのである。

ここは里中、少し手を伸ばせば風の国全部の情報を管理するところ。故に敵が襲撃する確率が一番高い。
私は貴方たちより攻撃力はないけれど、応援が来るまで奇襲に耐えて迎え撃つくらいの力はある。
ただキンコウの力を手に入れても彼女はまだそれが安定して出せるほどではない。
いざとなった時自分自身を守るのはいつだって自分だ。

「一人でサイン位もらえなかったら私も捨てるわ」
テッカン、情報が命より重いのは貴方が一番よくわかってると思っていたのだけれど?
そう肩を竦めたチクマに相談役すら使うお前が一番怖いと眉間を抑えた。


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