宝石とさよなら | ナノ


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「また酒か」
「へい旦那、退院祝いってことで一つ」
付き合ってくれよヘイヘイなんてすでに酔っぱらっていそうな程上機嫌のナマエが、二つのグラスになみなみと注いでいく。
先ほど約一週間ぶりの湯船につかってきた為それも原因に含まれているようだ。
病院ではシャワーのみだったと言うし、ゆったりと時間を取ることが出来なかっただろうから一人で入らせた。
それも先ほどの空気がいまだにオレの中から一蹴されていなくてまともにナマエを見れそうになかったからだ。
いや、そもそも成長したから風呂は別だとか断られそうだが。……別、別か。変化したら……いや、流石に無理か?女に変化してワンチャ…、それもないか……?

……まあ、どうやらナマエがいつにもなく上機嫌なのは入院生活の反動らしい、そういえばナマエは禁欲が苦手だった。
禁止されるとやりたくなるだの零し父さまに直談判をしに行ったあの時は本当に驚いた。さらに父さまがナマエの我が儘に耳を傾けていた事にもである。
知らぬ間に父さまもペースを崩されていたんだな。グラスをナマエが掲げたのでそれに軽く当て音を鳴らす。
先ほどの我愛羅の葛藤なんて知る由もないナマエは喉を通る度数低めのアルコールに気持ちよさそうに目を細めた。

「やーまじお酒最高」
ふふふんと聞いたことのない音楽を鼻で歌うナマエに視線をやりながらちびりと手元のグラスを傾ける。
こういう細かいところで彼女はやはり異世界人なのだと再確認してしまうのだ。だがオレはそれを止めようとは思わない。これが彼女が彼女たる所以だからである。
強制禁欲を脱したナマエは缶をグラスに傾け追加し「すごい頑張ったんだね」と酒に視線を注ぎながら零した。
病院で我愛羅君を慕う子たちが出来たのもきっと我愛羅君の努力のおかげだ。子供たちが怖がることも無く集い笑っている。
昔ではやはり何度考えてもあり得なかったことで、心から我愛羅君に友達が出来ることを望んでた。
「だから今この時が、この砂隠れが私の知らない世界みたいで……」
「紛れもなくナマエも知っている世界だ」
満足そうに、そして寂しさを隠す様に含めた音に、ナマエの言葉を遮り正面から真横へと移動して頭を突き出した。
「全部ナマエの為にやった」
「まーたそういう事言う…」
天然タラシもほどほどにしなさいよ。グラスを握っていた手もオレの頭に置くと強めに掻いてくれた。
「なんだか今日の我愛羅君甘えん坊な猫みたいね」
それはナマエだろうと目を閉じ心の中で我愛羅はツッコミを入れた。


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