宝石とさよなら | ナノ


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本日をもって例の騒動で生まれた負傷者の手術が全て終わり元通りになる。
残りは指などの比較的行動が制限されない忍たちのみだ。ただ印を結べない為に自宅待機や入院などを強いられているのだが。
毎日のように私の元に来ることを知り、私の目の前で「自分達は平気だし動ける」と我愛羅に自身の状態を具申する彼らだったが、自分があまり怪我をしないからか「お前たちが負傷するのは嫌だ、確率を下げるためにせめて万全の状態でいて欲しい」と心配そうに眉の生える部分を寄せた我愛羅君に彼らはふぐっと奇妙な音を漏らし胸を押さえていた。
私今すごい天然タラシを見た気がする……、そりゃトップからそんなこと言われたらメロメロになるわな……。まあこれが効くのは見ての通り若い子だけなんだけど。
そんな我愛羅君が慕っているのと自分たちのドナーだという事で、何故か私にまで頭を下げだした彼らから逃げるようにマタンさんの私室へと駈け込んだのだった。

今夜で外出禁止令も外されるだろうと閉じ込められ若干陰鬱だったナマエはまず外食に行こうと逸る気持ちを抑えつつ予定を立てる。
……退院したのと同時に仕事も始まる訳だが自由に動けるのがこれほど楽しいとは思わなかった。ワーカーホリックになりそうと自由の身になった自身を想像し声を上げたが元々ごろごろした生活が好きだったのを思いだしキャリアウーマンになれるわけがないと浮かれて生み出した幻想を打ち崩した。
まあ、休憩時間にエビゾウさん探しも再開出来るし我愛羅君達に早く近づかないと。先ほどロビーでもらってきた里の地図のめぼしい場所に印をつけていたナマエの背後から疲れた様子のマタンさんがなだれ込むように入ってきた。
砂隠れは木の葉みたいに医療忍術が発達していないし数も少ない。
攻撃が最大の防御だとばかりに子供に与える玩具に傀儡などを当てたりと幼少時から里ぐるみで先鋭化を図ってきたためか、マタンさん位の医療忍者は手が足りず皆こういう状態らしい。
家に帰る暇がないからこういった私室を貰えるのだが、貯まるだけの金で居心地のいい空間を作り出しているもののそこにすらあまりいられないなら本末転倒じゃないのかな……、まあそのおかげで私が泊まれるんだけども。
偶々チクマちゃんが暇な私の元で時間つぶしをしようと遊びに来ていた時に連日のようにヘロヘロになったマタンさんが仮眠を取りに来たのを見てそう言った砂のボロボロの実情を教えてもらった。
我愛羅君が風影になってから木の葉と忍教育の為の情報交換を盛んに行っているらしいが、早くても結果が出るのは数年後だろう。
頭脳と技術、それに体力や精神力と必要とするものが多い医療で次の世代なんてものはすぐに生まれるわけがないのだ。
そこは長い目で見るしかないし、手伝う事もできない私が出来ることはマタンさんを労うことだけである。
「おかえりなさい、今日はお茶ですか?それとも仮眠?」
「麦茶……」
冷たいのがいいとあまり使われることのないソファーになだれ込むように体を預け片手をあげて注文したマタンさんに氷を数個転がしたグラスを差し出した。

5分ほど頭を背もたれに預けじっとしていたマタンさんがようやく回復してきたのか状態を起こし、向かいで自分の作業を進めていた私へと向き直り「そうだ、ナマエちゃん」と声をかけてきた。
地図から顔をあげた私が何でしょうとマタンさんに答えれば君の身体の事を教えておかないといけないんだったと剃る暇がなくてだらしなく伸びている無精ひげを擦り眉をあげた。
「ああ、私も知りたいと思ってました」
今言い出したという事は今教えてくれるってことだよねと向こうの世界から使っていた愛用の万年筆を取り出し地図を避け手帳を出す。
二杯目の麦茶を注ぎ、向かいに座ったマタンさんが用意が良いねぇと笑ったが暇で知識を詰め込むことしかできなかったからだと心の中で少し毒づいた。

「君の居たところではどういう概念なのかわからないけど、この世界には肉体と魂という二つの自分がいて……」
子供に教えるような話し方にストップをかけられ「インクが出なかった?」と見当違いなことを聞いたマタンに違いますとナマエは頬を膨らませた。
「もっと普通に教えてください!」
「え、ざっくりじゃなくていいの?まあナマエがそう言うなら説明してあげるけど……」
きょとんと目を見開いたマタンが唸り出した。考えていたことよりはるかに詳細を付け加え述べようと頭の中で文章を再構築したマタンが天井からナマエへと視線を戻すとその口から呪文のように息継ぎすることなく文字が飛び出していった。
「……すみません、ざっくりでお願いします」
「うん、羅砂と自白剤で喋らせたときに君が身体の事を知らないのは知ってたからね」
忍は大体アカデミーである程度教わるんだけど、必修であるそれで単位を落とす子もいるからさと慰めなのかよくわからない例えを吐き笑った。



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