現在私は得体のしれないものと対峙していた。
ただし先ほどまで私を追いかけてきていた奴じゃない、なんか…緑……。

「えっと、助けてくれてありがとう……?」
ぶちりとそれを引きちぎり咀嚼している人魂のようなそいつに礼をいった。助けてもらったのは事実だったし。
塀の上であまりよろしくない三半規管をフルに使用しバランスをとりつつそう口にした私にそいつはいい笑顔で親指を立てた。
なんかこいつめちゃくちゃ友好的なんだけど……。
心の中で突っ込んだものの顔に出ていたのかそいつは自分の口元を指さし私を指さし最後に塀の上を示す。
ジェスチャーの意図が通じずとりあえず落ちそうだから塀から下りていいかと尋ねれば少し間を開けてオーケーと指で輪を作った。

己の身長より幾何か高いそこからそろそろと足を下ろし道路のコンクリに足をつけた。
生きた心地がしなかった。ようやく安堵しどっと汗を噴出させた私は長い長い溜息をつく。
深呼吸して息を整えている間にそいつは食事を終えたらしい。ゲップするとようやくこっちに向き直った。

「俺様がいてよかったな!他のやつらは見て見ぬふりしてたからな」
あのままだったら確実に食われてたぞとオドロオドロしい背景を携えて寄ってきた緑に固まる。

他のやつらとはいったいどういうことなのか。逃げている間に自分は一人も…人どころか猫一匹すら見なかったのだ。
消去法でいくならこいつやさっきのやつと同じタイプの存在ということになる。
待ってありえないでしょ幽霊なんて存在しないはず。でも自分が零感ならつじつまが合うのではないだろうか……。
いやそんなことよりまさかの一人称俺様!現代社会人として聞き慣れることはないだろう単語に引きつる私に「なんだ?驚いてるのか?」なんてニタニタしてくるそいつ。
混乱して次々と湧き出てくる疑問や感情に対応しきれず「そうだよ驚いてるんだよ、お前の一人称に」なんて思わず口にしてしまい即座に口元を手で隠す、がそいつは「おいおいそこは気にすんなよ、な?」なんて肩を叩いてきた。
一瞬ぞっと鳥肌がたつ。何か吸い取られるような感覚に思わず肩に触れた手を払った。

「おっと気づいちまったか」
「何を、したんです」
「助けてやったお礼に死なない程度吸わせてもらおうと思ってよぉ、霊力を」
ちょっとだけ、さきっちょだけなんてエロ漫画のようなことを言い出した人魂っぽい何かに威嚇する。

「んなもんあるわけないやろ!こちとらうまれて20年さっきみたいなやつ見たことなかったんだぞ!!」
「ほんとかよ?じゃあ何あれ無意識?」
「アレって何なんだよぉ!」

ダァンと地面を両手で叩く。情報量が多すぎるんです。
どうか一つ一つ処理させてください!
うぉんぎゃおんなんてみっともなく暴れる私に今度はそいつがドン引きしていた。
……が、知ったこっちゃなかった。
助かったと思ったら殺人鬼が別人になっただけなのだ。
しかも最初の殺人鬼よりはるかに強いのは抵抗らしい抵抗もなく緑の腹(?)の中に納まったことから理解していた。


「なんで誕生日にこんな怖い思いしなきゃいけないんだよぉ…うっ」
「えぇ…わかったよ今日はもう家に帰って誕生日祝おうぜ?」
泣くなよ…シゲオ妙なところで鋭いから見つかったら消されちまうんだよぉなんて泣き言をいう人魂に背中をポンポン叩かれあやされた。
今度はさっきみたいな持ってかれる感覚がしなかったから本当に何もしないでくれるらしい。
目元を袖で拭いながら人魂を伴って私たちは安いアパートへ向かったのである。

ところでシゲオって誰だよ。



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