桜威を置いて相談所のドアを開ける。社長出勤とはいい御身分だななんて声をかけてくるボスに間に合えばオーケーっしょと肩を竦める。予約時間を伝えた霊幻が悪い。そして制服がないので着替え時間も気にしないで済む。まあその五分前に来て着替えを終えておけというのはサビ残にあたるのだが、この事務所には関係ない話であるので割愛させてもらおう。初日ごろはスーツを着て欲しがったが契約書にはなかったと拒否したらまあ仕事してくれればいいかと私服許可を出されたので、まあそういうことである。女のスーツは体格に合わせて仕立て直しをしないと使い物にならないので初期費用の時点で高いのであると屁理屈をこねる私を信じずパソコンを起動するボスをせせら笑う。値段を知ったボスは検索画面を閉じた。スーツ一式丸っと買ってくれるなら吝かではないと発言しといたことは内緒な。


「おや、エクボじゃん」
本日3件目の仕事を終え、汗を拭って腕まくりを戻している霊幻と、マッサージ道具の片づけをしていたナマエ。簡易ベッドを消毒して奥へと運んでいれば「マッサージ屋開業した方がいいんじゃねぇの」と口にし窓から侵入してきた浮遊物を発見してナマエが声をかけた。
モブ君は一緒じゃないの?問いかけるナマエにエクボが走り込みでぶっ倒れたと伝える。
「いつもの貧血か」
霊幻が青春してんなぁとぼやく端で片づけを終えて休憩に入ったナマエが「メッセンジャーウケる」と笑う。「ウケない」エクボが若干語尾を荒げて断言する。
「大体お前ら二人でどうにかなるだろ、霊幻も俺様が見えるようになったし」
「バーカ、モブの力をきっかけに見えるだけで前となんも変わらん」
「つまり二人とも詐欺師のままと…」
人聞きの悪い事言わないでくださーい、お客様には満足してもらえてますので。ハモる二人にそういうところなんだよなぁと身体を揺らしたエクボをじっと見つめだした霊幻にエクボは思わず後退りする。何だよ…。
「おいナマエ、エクボに悪霊食ってもらったんだったよな?」
「え、うん。その節は大変お世話になりました」
深々とお辞儀をするナマエに感謝され慣れてないエクボがおう…と小声で返す。なんだこれ、ちょっと恥ずかしいぞ?たじろぐ浮遊物をしっかり髭を剃ってつるつるしている顎に手を当てていた霊幻が提案する。
「除霊頼むわ」言い方がすでに確定事項のものである。パシリじゃねーしと叫んでるエクボに「ナイスアイデアじゃんボス、エクボ強いし頼りになるよ」と賛成票を入れたナマエのせいで多数決に負けたエクボはそのあとの仕事で強制労働させられ霊幻に揶揄され散々な日を過ごした。





「店長、桜威ちゃんどうだった?」
霊とか相談所を終業後、自分の後輩たちを見回りに散歩を続けていたナマエは歩きながら電話先の男に尋ねる。同時刻疲弊しきった桜威は廃棄したベッドの代わりに買ってきた布団の山に着替えもせずに身を放り投げているが、それをナマエが知ることはない。帰ってくる頃には寝入ってる時間になるからだ。
「そうだね、動きは初日だしぎこちないけど確かに頭は良いよ」効率重視の動きが出来る、君が拾ってきた人材の中でも中々だと思うねと静かに評価を下す店長にそうかそうかと電話越しに頷く。笑顔は出来ないけど。付け加えた店長にとうとう笑い声が漏れる。「適当な所で店長の本業紹介してあげて」多分そっちの方が動けるから彼。ナマエの提案に頷き返した男はこれが目当てでウチに来たのかとため息をつく。「お前はどうしてそうやって毎回育成した人材をバックの仕事へと回そうとするかな」
「身寄りのない人間は特に安定した職につかせてあげたいからね」
私みたいなやつは何かと金は必要だもの、その代わりちゃんと配属先は見てるでしょ。
お節介の塊のようなナマエを笑うと、まあそうだなと男はそれを了承した。


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