「面接明日いいって」
「…早いな」
履歴書とか用意する時間あるのかと問う桜威にナマエは手ぶらで大丈夫だよなんてにやりと目を細めた。流石にそれはまずいのでは?怪しむ桜威にまあ用意してもいいけど仕事行く前に連行しようと思ってるからそれなら一人で行ってもらうことになるとナマエは言う。ひとり、一人か……。「それはその、デメリットがあるなら教えて欲しい」面接に向かい受付嬢と顔を合わせた瞬間からひきつった顔で応対された記憶が鮮明に浮かぶ。でも、面接に送ってもらうって言うのも正直クソ恥ずかしくないか?もうなんか顔ではねられるなら化粧でもして隠すべきか?血迷いだした桜威に向かって指を一本立てたナマエが「店長呼び出しのワンクッション省ける」と言った。ついてきてもらうの一択じゃねーか。頭を下げた桜威の姿は傍からみて本職の人間そのものだったと言う。





「久しぶりぃ」軽い挨拶にこの時間から歩き回ってんの珍しいっすねと仲良さげに会話しだしたナマエを小突く。お前昨晩「昼過ぎに予約はいってるからって置いたらすぐ行く」とか言ってただろうが。
そうだったそうだった。店員がちらりとこちらを見たが、ナマエと普通に接していたのを見ているからか顔が引き攣ったりなどはされず、店長とカウンター前から呼ぶナマエを後目によろしくな後輩なんて挨拶をかまされた。いや、まだ面接すらしていないんだが…?基準が弱肉強食である爪が基準なので一般職の人間ってこうもフレンドリーなのかと疑問符を浮かべる桜威だが特殊なので勘違いを起こさずそのままでいて欲しい所である。
奥から入ってきていいよーとこれまた間延びした男の声がし、ジャケットを脱いだままの俺の背をナマエが押した、待ってくれ心の準備が出来てない。
最近ずっと受けてきたトラウマからひたすら汗をぬぐい緊張したままの顔でドアを、……嘘だろドアが空いている。どうすればいいんだ。爪にいた時どうしていたかを忘れパニックに陥り出した俺をナマエがみつめる。「ワロ」ワロじゃねーんだわ。

「店長、こいつです」
昨日言及した人材でーす。軽くないか?ナマエのことばにとりあえず頭を下げる。後に芹沢が詐欺師の事務所に就職したときと挙動不審さどっこいどっこいだったわと語るところから俺の緊張は伝わって欲しい、閑話休題。

話には聞いていたらしくほんとに本職の人みたいだねと笑う店長にぎくりと身体を縮こませた。今まで全部の面接を顔で断られている俺にとってその単語はあまり口にして欲しくないのだが、ナマエの知り合いなのでそういったところに気を使わないタイプなのだと唾を飲み込む。
「桜威ちゃんです。真面目ないいやつですよ、私より頭いいよ」汗で若干曇っている眼鏡の先でナマエは店長へとそう推薦する。お前変なところでポカするもんな。店長はからからと笑い、その揺れでパイプ椅子が軋む。まあ、お前が推薦してきた奴にはずれはいないからな、いいぞ。うちで雇うよ。完全にコネ入社である、コンビニバイトだが。いつから入れる?自分を置いて勝手に進んでいた話にえっと言葉を詰まらせる。「…面接終了したのか?」ナマエに縋るような視線を向けた。
「うん終わり」
「えっ」
「え?」
俺挨拶してないんだがこれでいいのか?



じゃあ初勤務頑張ってね。そういって持ってきていた合鍵を渡してから去って行ったナマエがレジ脇から出ていくのを見送る。店長の男が10分位待機と言って出て行ったので取り出した携帯で一番親身になって慰めてくれていた女を探し通話ボタンを押した。
「…槌屋、バイト決まった」
「おー、良かっ…え?早くないか?」
だよな。
桜威は己の価値観や常識が間違ってないことを確信し心の底から安堵した。


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