生きているのかと問われたらなんて答えようか


えーテステス、うーん何から始めようか。
とりあえずこの何もない世界へようこそ。かな?なにしろここは私の夢の中だからね。
盲目となって久しいから、こんな時になかなかいい環境を思い浮かべられないみたいだ。
普段白しかない世界だからたまにはと思って暗くしてみたけれど、うーん。これだと君の影が見えないのか。
もがいて拙い落書きのような花畑をテクスチャにしてしまうよりはこの方が無難かなって思ったんだけど。これはこれで失敗だったね。
まあでも、久々のお客様だから明かりくらいはつけよう。やはり独り言よりは人影が見える方が盛り上がる。
判別は出来ないのだけれども……。おお一瞬揺らいだってことは、君、吃驚してるね?
お姉さんそんな素直な反応が返ってくるとは思わなかったから嬉しいよ。
ここ、頭の中なら思い通りに身体を動かせるからね、何でも出来ちゃうんだ。はい座布団っと、どうぞ座って。
それじゃあ、腰も落ちつけたところで……。


ゆるゆると挿送を繰り返され、鈍い痛みが下半身を襲った。
ああ、今日もなのか。そう呆れたように息を吐こうとするも、女の口から出るのは揺さぶられる際に漏れ出る熱い吐息と生理的な喘ぎだけだ。
捕虜だったはずの自分は誰かに売られ、性処理用の玩具として飼われているらしい。
現在私が感じられるのは胴体部分の触感と、青臭い例の臭いだけだ。
多分拷問時に四肢の神経を付け根から断ち切られたのだろう。まだついてるのかどうか。
切られたところでほんの少しも痛みを感じられそうにもないけれど、あまり自分のそういう姿を想像したくないから無事についてることにしている。
クソAIもいいところだ。辺り判定が大雑把すぎる身体になっていた。私が敵のゲームが発売されたら間違いなくキングオブクソゲーとして栄光の1位を授かることが出来るだろう。
そうそう。まだまだ不自由なところはある。耳もいつの間にか聞こえなくなった。
聴覚は拷問時にあまり手を入れないはずだから、おそらくこれは私が自分で聞こえなくしてしまったんだと思う。
これがなぜ自分でやったのかと問われれば何となくとしか答えようがないのだけれど。まあこの世界に来てから塗り替えられた常識で考えればわからなくもないだろう。
盲目となった人間を耳だけで殺す方法があるのだし、あちら側だって尋問自体が聞こえなくなってしまったら問題だろうから。
おそらく、だ。自己防衛だったんだと思う。耳にぶつかる男らしき人物の吐息が長い。何か語り掛けているらしいがそれが一切こちら側に通じてないのだと思うと虚しい行為だなと笑いがもれそうになる。
ああ、だんまりを決め込みすぎて言葉の話しかたを忘れてしまったから単語になることもない。音になったとて母音がいいところだ。私に覆いかぶさっている君は安心して自慰を続けてくれたまえ。
そんな私の言葉が通じたのかどうか、少し男は上半身を浮かすと、今度はねぶるように手入れの行われていない唇を舐め、吸いつき、むしゃぶりついてきた。
真正面に来たところで、私の白く濁った視界に男の顔が映ることはない。スモークガラス的なアレだアレ。
どんな姿をしているのか、どんな声なのか、それすらわからない私だが最近になって少しだけ記憶にとどめて置けるようになった男のことについてもついでだし話そう。
抱いているときにつま先を絡めキスを落としてくるところから男は少年ではない。
そして男の口はいつだって酒やたばこやニンニク臭くなく、それなりにきちんとした奴だと言う事だ。
そんなもんすぐにわかるだろうと馬鹿にする人間が出てくるかもしれないがちょっと待ってほしい。人は鼻ではなく味でもにおいを嗅いでいるらしいと聞いたことはないだろうか?
ない?なら嗅覚で味を判別しているというのは?ああそれならあると。良かった。説明がめんどくさくなるし専門的な話になってしまうからね。
まあ、とにかく嗅覚と味覚は密接な関係を持っていて後天的に片側がダメになった自分はつい最近ようやくその信号を脳に送れるまでに回復したのだと言う事だ。
話を戻そう。一定時間たつと帰宅してバードキスだのディープキスだのその日の気分で温い唾液交換を行っているのだが、本当に最近まで気づかなかったのだ。
巷ではこれを愛撫と呼ぶのだろが、生き人形になってしまった私には悲しいかな関係のない話なのである。
男性向け自慰用の穴付きのアレとか、そういう感じなのだから。物に欲情する人間もいるにはいるだろうが、そんな少数に当選してしまったと考えるよりは自分を体の良い道具として使用されていると思う方が遥かに道理だろう。

ここまで主観と偏見で現在の自分と、あと男との現状をだらだら語らせてもらったが、実は私はこの男に感謝をしているのだ。
あのまま拷問室にいれば近いうちに廃棄処分となっていたことは想像するに難くないし、何よりこの身体では捕虜として生かす価値がなくなってしまっている。
そんな嗅覚と胴体部分の触感のみなんとか維持しているようなギリギリの状態の私に毎日違うものを食べさせ世話を焼いているらしい物好きな男に抱かれるたび、私は一人白い世界で感謝を述べているのだった。


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