Irene | ナノ


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化け蜘蛛の存在を認識した弊害なのか、はたまた近くに置くことを許してしまったからなのか。
生身でない身体でオレは異種族を認識できるようになっていた。これを成長というか変化というかは知らないが。
今だってすぐ目の前を飛んで行った頭骨に気付かなかったふりをして顔面から突っ込む。
ぬるりと何かを抜けた感覚だけが触れた箇所に違和感を残しているが、気付かないふりをしていた。
それを認識してしまえば知朱のように物体として具現化しそうでめんどくさかったのだ。そこらじゅうに浮いてる障害物を避けるなんて不可能に近い。
生活圏が脅かされるのはごめんだった。

だがそんなオレに気付いている知朱は面白がっていちいち自分の仲間である妖怪どもに指をさしては顔を向けて欲しがる。
今度は通りで名前の知らない妖怪が使いを頼まれている場面だった。
「そういやてめぇには部下とかいねぇのか」
「眷属なんて宵がさめてしまうではないか」
知朱は行動が縛られないから独り身が良いと笑い肩に蜘蛛の腹をぺたりと乗せ、人のような上半身を上手くひねると頬杖をついた。
暁にほぼ強制的に入れられペアを組まされているものの、個々の間に分厚い壁を隔てているためその辺にある組織とは些か仕様が違う。
だからオレもコイツと同じく基本は独りと言っていいだろう。理由なんてまさにコレと同じだった。

互いに眷属や隷属の間柄でもなかったが、構ってくれと口うるさいこの妖怪と過ごすのも悪くないと思ってきてしまっていた。
絆されたわけではない、これはただの慣れだ。そう自分に言い聞かせ、うっかり認識しかけた目の前を横切った妖怪の存在を否定した。

「サソリや」
我がお前さんをこちらの世界に取り込もうとしてるとは思わないのか?
生きているとは言いづらい中途半端の存在であるお前を手招きしているのだと知朱は零すがオレはそれを鼻で笑ってやった。
「妖怪は好きじゃねえからな」
大抵見た目は醜悪だし美しくねえからなと返してやればむっと口を尖らせた知朱は反論した。
「それは……、我も美しくないと?」
「少なくともオレの趣味じゃあない、オレはお前に引っかからなかっただろ」
否定はせず、自身の美的センスと合わない証拠として出合った当時の情景を提示し思い出させてやれば、化け蜘蛛はすとんと行ったらしい。
先ほどまで不機嫌な顔をしていた知朱は真横を飛んできた蝶をむしゃりと口にすると妖艶に弧を描きだす。
「サソリは人を褒めないのう!」
「お前人じゃねえし」
その言い分に当てはまらないだろとヒルコの中で返せばからからと肩に乗ったそいつは笑った。


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