Irene | ナノ


▼ 3



「サソリ、暇じゃろう!」
妖怪だからなんだか知らないがとにかくこの雌蜘蛛は怪我の治りも早いようだ。
きれいな肌に傷跡を残さずすっかり元気になった知朱は毎日同じようにオレを誘惑しようと手を変え品を変え声を掛けてくる。昨日は胸ちらで今日は腿ちららしい。
それを無視し人傀儡づくりに励むサソリにとうとう泣き真似を始めた知朱。ふぅと長めの溜息をつくとゆっくりと振り返った。

「……テメェ何で範囲増えてやがる」
うっかり放置していれば自身の糸でどでかいソファーベッドを作りやがった知朱にサソリは眼輪筋を引き攣らせた。
「愛の巣かの?」
「帰れビッチ」
つれないだの寂しいだの喚く蜘蛛の頭を押さえ糸を巻いていく。
結構な強度の糸はその細さにもかかわらず途中で切れることはなかった。
人間以上の力を出し引っ張っても傀儡に仕込む用の刃でも切れない。
……傀儡のパーツをつなげる部品に使ってみようか。サソリはふと自身の頭に出てきた図案を手元の紙に書き起こすと足元に引っ付いている知朱を見た。

「おい、この辺で切れるか?」
俺が何をしたいのか理解が出来ずに首をかしげるも、言われた通りに知朱が手刀を降ろすと金糸はあっけなく二つに分かれる。
ほう……、漏れた感嘆の声。自身に興味を持ってもらえたことに気を良くしたのか知朱は手伝う事はあるかのと問う。
「そうだな、ここに糸を通してこれと繋げたい」
不思議な金糸を使うならば自分で切れないし知朱がいた方が楽だろう。
サソリが腕のパーツを滑らかにするためナノ単位で削っている横で知朱に作業を手伝わせることにした。


3日ほどかけて完成した人傀儡にサソリは重い腰を上げた。
ずっと座りっぱなしだったために固まってしまった間接を回し、チャクラ糸で完成した手のそれを浮かせる。
それを見てのそのそと壁際へと寄った知朱はその辺の女よりははるかに察しが良い。
残りの糸で編みこんだ人間サイズの一人用ソファーに腰かけた知朱がクチャリと芋虫を食いちぎりながらサソリの指が動く様子を見る。
指の動きに合わせいくつもの関節をカタカタと鳴らしながら思った通りの動きをしたことに満足そうにそれに襤褸切れを被せた。

「お前の糸はなかなか面白い」
今までにない趣向の傀儡を創りだせたことで皮肉と罵倒ばかり発する口からはそれを褒める言葉が飛び出した。
嬉しいことを言ってくれる。にんまりと綺麗に弧を描いたくちびるを舐め、知朱はするりと細い脚を地面におろした。
「……してサソリや、お主も蜘蛛なのか?」
少年の指先から出た糸を見つめつつ顔をあげれば少し下にある少年の顔が化けモンと一緒にすんなと歪められる。
そいつは失敬した。目を瞑り手をあげた知朱にサソリは「まあ俺もお前と同じようなモンだけどな」と小さく付け加えた。


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