プロローグ


世界中に構成員を持つ国際犯罪集団、通称「黒の組織」。
そこに長期潜入を果たし、内側から瓦解させた立役者である"降谷零"という存在は、もはや警察庁公安部の中で伝説と化していた。
もっとも、降谷零本人と接触したことのある捜査員は数少ない。
それは、降谷がいまだに現場主義を貫き、民間人に混ざって活動しているからだ。

「――だがなあ、降谷」

裏理事官と呼ばれる男が、降谷を目の前にして言う。

「現場にもバランスがあるということを、いい加減受け入れてもらいたい。お前、今年でいくつになる」
「…33ですが」

しかし、その姿は組織に潜入していた20代の頃とほとんど変わらない。
およそ警察官には見えないこの容貌を生かして、数多の現場を潜り抜けてきたのだ。

「お前ほどの男なら、もう管理職につくのが順当な人事だぞ。それに、組織の残党がどこかにいるかもわからん。いい加減、現場を離れるのがお前の安全のためでもある」
「お言葉ですが、自分は現場でしか生きられない人間です。現場からは外れられません」
「しかしな、下が詰まっているんだよ。下の、若い世代の奴らがな」

確かに、降谷は限られたポストの一つを長く独占している。
本来ならもっと若い捜査員がすべき仕事も――降谷が若く見えることも手伝って――彼が行っていることもまた事実だった。

「どうしてもお前が現場にこだわるなら、条件がある。どうだ、この辺でひとつ後進の教育係をしてみないか。一対一で」
「…バディを組むということですか」
「そうだ」

最初からそのつもりで降谷を呼び出したのだろう。
裏理事官は、4枚の顔写真つき経歴書を降谷の目前に示した。

「警視庁から上がってきた候補者だ。ここから一人選べ。一晩考えてくれて構わない」

降谷はその場で経歴書を一瞥して――

「いいえ。もう決めました」

1枚だけを表に、あとの3枚を裏返して理事官に戻す。
その選択の速さ、そして選ばれた一人を見て、理事官は意外そうな声をあげた。

「…それを選んだか。まあ、せいぜい後輩を導いてやってくれ。"ゼロ"」




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