「……仁王。お前、本っ当に比呂士大好きだよな。知ってる。知ってるぜ。だけどさ、」

丸井は呆れ顔で言った。

「お姫様抱っこして拉致るってどうなの」
「ち、違います!!」

柳生は慌てて否定した。





脱衣所から一向に出て来ようとしない柳生に仁王がどうしたのかと中を覗くと、そこには床にへたり込んだままの柳生がいた。寝間着は何とか身に付けていたものの立つことが出来ず、「仁王くーん……」と情けない声を上げ、半泣きで彼に助けを求めたのであった。



「柳生さん、腰抜かしてて歩けないのよ。A組の部屋まで連れて行って帰ってくるの面倒じゃけん、此処で寝かす事にした。いい?」
「いい?って比呂士に聞けよばか」
「私は、あの、」

柳生はそこで言葉を区切り、本当にいいのでしょうか?と仁王に視線を送った。仁王はうんうん、と頷きその視線に答えた。

「――ご迷惑でなければ、御厄介になりたいかと」
「深夜に皆を叩き起こした時点で御迷惑かけてるナリ」
「仁王!!」

丸井は仁王の頭をぽか!と殴った。

「ですよね……皆さんの安眠を妨害してしまって申し訳ありませんっ」
「気にするなって!比呂士は全然悪くないぜ!!このばかが戸を派手に蹴破ったのが悪い」
「だって両手使えなかったんだもん」
「にしてももっと静かに入る方法があるだろぃ!それに、」

丸井は仁王をビシッと指差す。

「大方こいつに何かされて腰を抜かしたんだろぃ?」
「「!!」」

――当たってる!!

「……だりゃあ!!」
「うひゃあ!?」

仁王は柳生を空いてる布団に投げ、自分も同じ布団に潜り込み柳生を抱き込んで頭から毛布を被った。

「お休みブンちゃん!!」
「コラ、比呂士を離せ!」
「いやー」

この甘えん坊め!と丸井は毛布を剥ぐのを諦め床に就いた。

(全く昨日と同じ状態ですね)

柳生はやれやれ、と自分を抱き込む仁王の背中に両腕を回した。

仁王はあの後、柳生の身体についてもキスについても何も触れなかった。柳生さんはホント怖がりじゃのう、と言っただけで、明日は京都に移動だとか寺巡りばかりで退屈だとかそんなとりとめのない事ばかり話した。

―――もしかして、女と気付かなかったのでしょうか?真っ暗でしたから、姿はぼんやりとしか判らなかった筈ですし。でも抱き心地、とか胸の感触、とか……

ああ!ああ!

「……やーぎゅ?」
「す、すみません!痛かったですか?」
「いや、ビックリしただけぜよ」

思わず腕に力が入ってしまいました。はあ。殿方に裸で抱き付くとは私とした事が、何と破廉恥な……

もとい。仁王くんは鋭い観察眼を持った方です。バレている可能性は十分にあります。しかし、一度男と認識したものを覆す事は容易ではない筈……ちょっと肉付きいいな、程度で女と気付いていないのかもしれません。キスだって私を落ち着かせる為にした行為であって、恋慕や愛情といった意味はなかったのでしょう。そうでなければ――

柳生は上目遣いで仁王を見る。彼は目を閉じ寝息を立て既に夢の中だ。

――何事もなかったかのように眠るなんて出来っこありません。

このまま気付かなければいい。女と認識されてしまえば、こうやってじゃれ合う事も出来なくなる。そんなの嫌です、いけません、ずっと一緒にいたいんです、離れたくないんです、


ああどうか、遠い人にならないで、



貴方が、大好き。





   



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