(お天気お姉サンは今日一日ずっと晴れますーち言うとったのにな)

部活を終え、立海レギュラー陣は部室に戻り各々制服に着替えていた。仁王は窓からとうとう泣き始めた空を仰ぎ、部活が終わった後で良かったぜよ、と胸を撫で下ろした。何せちょっとやそっとの雨では中止にしてくれないのだ、部長も副部長も。雨に濡れながら練習なんて趣味じゃない。

「俺、傘持ってないッス。サイテー」

赤也は仁王の肩からひょいと顔を出し、外を見て大きな溜め息をついた。

「走って帰るナリ、若人よ」
「そう言うアンタだって置き傘してるふうには見えませんけど」
「残念じゃったのう。この間持って帰るのを忘れたんでここにあるぜよ」

仁王はニヤリと笑い、己の開けっ放しのロッカーを指差した。

「くっそう……丸井先輩!アンタなら傘持ってないきてないッスよね」
「どんな期待だよ。持ってきてるに決まってるだろぃ?」

赤也の質問に丸井はフフンと笑い隣を指差した。

「ジャッカルが!」
「って俺かよ!!……まあそう言うだろうと思って二人分持ってるけどよ」
「おまんはブン太の母親か」

仁王はニヤニヤと笑い、赤也は悔しそうな顔をしながら自分のロッカーを漁り始めた。

「何してるぜよ?」
「傘の一つや二つ、俺のロッカーにも入ってるかもしれないッス!うおおおお――ッ!!」

赤也は外に投げ捨てるようにロッカーに入っているものを片っ端から出し始めた。ゴミやジャージに混じって学生鞄までも放り出され、中身が辺りに散らばった。

「赤也!部室に物を散らかすな!!」

喝を入れる真田の横で、柳が背をかがめ足元に転がった雑誌を手にし、おや、と呟いた。

「赤也……お前もこういうものに興味を持つようになったのか。姉さんは感無量だ」
「何を言ってるんだ、蓮二?」
「ぎゃ!!副部長は見たら駄目っス!」

赤也が慌てて真田を制止するも時既に遅く、

「た、たるんど――…」
「副部長――ッッ!!」

真田は頭から湯気を出さんばかりに全身を赤く染め、目を回しその場に倒れた。

「あっちゃー……」
「何見せたぜよ?」

仁王は柳の手から雑誌を取り上げた。そこにはセクシーなポーズを取った裸の女性がいた。パラパラとページをめくるとどれもこれもそういう写真ばかり載っている。

「これは……親父の鉄拳制裁だけで済むといいけどな」

丸井が雑誌を横から覗き込んで言った。

「ああ。部室にこんなものを持ち込んで、母さんからイップスかけられてもおかしくないな。3日間味覚を奪われるとか……」
「そーだな。視覚聴覚とか周りが見て異常と気付くものは奪わないだろぃ。地味に嫌がらせを……」
「柳先輩、丸井先輩!脅さないで下さいよォ!!」

赤也はあーもーどうしよう!!と頭を抱え込んだ。

「……赤也」
「何スか仁王先輩」

それまで黙って雑誌を見ていた仁王が口を開いた。

「この雑誌、貸してくれんかの?」
「「「!?」」」

予想だにしていなかった仁王の台詞にその場にいた全員が凍りつく。

「何じゃお前ら、その反応は」

首を捻る仁王に赤也が恐る恐る尋ねた。

「あの、仁王先輩。念の為に聞くっスけど……何に使うんスか?」
「何に使うち、一つしかないじゃろ――だから何じゃ、何でお前さんらそんな顔するんじゃ」

すると堰を切ったように全員が仁王に喰ってかかった。

「仁王!彼女持ちのお前にコレは必要ないだろぃ!!」
「そうっスよ!!しかも家族は柳生先輩が女だって事知らないんでしょ!?家に連れ込んで部屋に籠もっても怪しまれないなんてその気になればヤりたい放題じゃないですか!!」
「仁王……まさかお前、柳生と別れ……」
「馬鹿な事を言いなさんな、縁起でもない」

仁王はジャッカルの頭をピシャリと叩いた。

「俺と柳生はラッブラブぜよ」
「じゃあ何で……」
「柳生さんはトイレにいかんのじゃっ」
「――は?お前、何言って……」

その時部室の扉がガタッと開き、皆一斉に口を噤んだ。

「仁王くん。お待たせしました」
「やーぎゅ!」

そこには制服に着替えた柳生が傘を差しにこやかに立っていた。仁王は赤也の胸に雑誌を押し付け、その耳に囁いた。

「傘、貸してやるぜよ」
「へ?」

驚く赤也を後目に仁王は鞄を手にし柳生に駆け寄った。

「やーぎゅ。俺、傘忘れたナリ。入れてくれんかの?」
「ええ、いいですよ」

柳生の返答に仁王は破顔し彼女に飛び付いた。

「やったー!!柳生さんと相合い傘じゃー!」
「ふふ、仁王くんたら」

柳生はクスクスと笑い、そして室内の仲間に頭を下げた。

「それでは、アデュー」
「プリッ」

そして彼らは扉の向こうに消えていった。










「……まーたおかしな事言い始めたぜぃ、仁王のヤツ。まだまだ一波乱ありそうな予感」
「柳生さんはトイレに行かない、か……」

柳は仁王のロッカーに残された傘を見つめ呟いた。

「何処の乙女だ、アイツは」




   



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