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ペテンの鱗を絵空事にしないで 19

真っ青な空に色とりどりの花びらが映えるように舞い散る。
沢山の祝福の声と笑顔で満ち溢れ、時に感動の渦が巻き起こるこの場に、俺は確かに存在していた。
そんな幸せに満ちた夢のような空間の中心に自分がいる日がくるなんて、まさに夢物語だと思っていたのに。

自分達を支えてくれた人たちの前で誓いたいと人前式を希望した山崎の願い通り、沢山の人たちの前で夫婦への誓いを果たした。それは己が思っていた以上に大切な誓いになったと言える。


「・・・まだ信じがたいな」
「ん?何か言った??」
「いや、なんでもない。あっという間だったな」


慣れない感情に戸惑っているのを隠す様に、既に暗記している謝辞の書かれたメモを確認する。
ガーデンウエディングだから笑顔で終わりたいとの彼女の要望で、花嫁から両親への感謝の手紙は序盤に行われた。手紙の最後に「今日から夫婦として生きる私たちがどれだけ恵まれているか、しっかり見ていってください」と添えられたため、その後の演出も楽しいものになったと思う。あちらこちらにあふれる笑顔がそれを物語っているのだから。もっとも、お酒の力に溺れてしまっている人もチラホラ見受けられるが。


「あとは新郎の謝辞と、ゲストのお見送りで終わりだね。一日が早かったな〜」


スタッフにより着々とその準備が整えられると、何故か謝辞を言う必要のない山崎が緊張していくからこちらの緊張は解れて助かった。本日何度目になるか分からない注目を浴び、しっかりとマイクを握りしめる。


「本日は多忙な中、私どもの披露宴にご列席いただきまして・・・・」


参列者への感謝、二人のエピソード、今後の抱負。どれも詰まることなくさらりと言葉が出て来るのは秘かに練習をした成果だろう。嘘や建前なので言葉を述べるのは簡単だと思っていたが、いざ本気で感謝を込めるとなるとやはり勝手が変わるものだということは、山崎への想いを口にする時に実感させられたからな。

ここ迄は山崎も知っている内容での謝辞。だがここからは彼女も知らない、俺からのサプライズが待っている。


「本来ならばこの後は皆様のお見送りをさせて頂くところですが、先に失礼させて頂く非礼をお許しください」
「え??!」


聞かされていない展開に目を丸くして俺を見上げる彼女の予想通りの反応に自然と笑みが漏れる。
俺の言葉を合図にすぐさま連絡を取る風見を確認し、再びざわつく会場全体へと視線を戻す。式場のスタッフには事前に打ち合わせ済みのため、手際よく参列者を誘導していく姿はまさしくプロフェッショナルだ。
次第に大きくなるプロペラ音が会場のざわめきをかき消すほど近づけば、その音の主がヘリコプターだと誰もが理解しただろう。


「大切な皆様に見送られて旅立ちたいという私の願いを叶えさせていただきました」


ヘリコプターから降ろされた梯子につかまり、山崎が落ちない様にとしっかりとその腰を抱きしめる。まだ状況がつかみ切れていないのか戸惑っている山崎に掴まるように耳打ちすると、恐怖からなのか人前だという事も忘れて全身で抱き着いてきた。
物事に動じない一部のメンバーからの揶揄いにもにた野次が飛ぶ中、次第に高度を上げるヘリがこの式の終わりを告げる。


「本日は私たちの門出を祝福していただき、誠にありがとうございました」


上から叫んだ俺の声は、祝福に沸く大勢の声と混じりあって賑やかな空へと溶けていった。





「そろそろ落ち着いたか」
「まだビックリしてる…。降谷くんのサプライズはサプライズ過ぎるよ」


式場を後にしたヘリは、そのまま新婚旅行先のホテルへと降り立った。
新婚旅行は明日からの予定だと打ち合わせていたので、俺が前日も余分に押さえていたなんて想像もしていなかったのだろう。サプライズを仕掛ける側としてはありがたいが、どうやら少し驚かせ過ぎたようでホテルの部屋についてからもしばらく山崎の放心状態は抜けないようだ。
窓際のソファーに座り込む彼女の視線は下を向いたまま。窓から差し込む光が次第に陰り、赤味を帯びていくたびに真っ白なドレスを染め上げていく。


「悪かったな。大丈夫か?」


驚かせるつもりだったが、まさかここまで驚くとは想定外だった。彼女にこんな顔をさせるつもりではなかったし、本音を言ってしまえば一刻も早く彼女と二人きりになりたいがための作戦だった。
沢山の人に祝福されて、そのまま二次会に流れ込むという一般的な流れが悪いとは言わない。だが、祝福される立場に慣れていない俺は居たたまれなくなると判断したのだ。そのために、周りも山崎も許してくれそうな回避案としてこのサプライズを決行したのだが、どうやら事前に風見がいっていた「やりすぎでは?」が答えだった様だ。


「怒っているか?」


俯く彼女の前に跪いて顔を覗き込む。先程まで虚ろだったその瞳は、俺と視線が交わると少し恥ずかしそうに視線をそらした。それを機に青白かった顔も赤みが増してきたということは落ち着きを取り戻してきたし、どうやら怒ってもいないようだ。
内心ほっと胸を撫でおろしながら山崎の手に触れる。少し冷たいその手を握りしめると、握り返す気力があるようだからもう大丈夫だろう。


「やっと二人きりになったんだ。顔を上げてくれ、山崎」
「‥‥もう山崎じゃないんですけど」


落ち着いた途端に恥ずかしくなったのか、赤みを取り戻したどころではなく真っ赤に頬を染めた山崎が可愛らしく唇を尖らせる。それに加えてチラチラと恥ずかし気に視線を送ったりしてくるから簡単にたがが外れそうで困る。


「そうだったな」


いつまでもそっぽを向いている顔を少し強引に正面を向かせ、恥ずかし気に揺れる彼女の瞳の中に俺を映させる。ただそれだけで感情が昂るのは式の余韻のせいなのだろうか。


「茜」


呼び名なんて気にする事ないと思っていたが、自分の口から出た愛おしい響きが大切さを物語っていた。覚えたての子供の様に、何度も何度も彼女の名を呼ぶ。彼女の名を呼ぶたび広がる幸福感に酔いしれる俺がさすがに恥ずかしくなったのだろう。両手で俺の口を塞ぎながら「わかったから」と先程より顔を赤らめる彼女を前に、プツンとあっけなく理性が外された。


「ぅひゃぃっっ!?」


俺の口塞いでいる手のひらに舌を這わせれば、真似できない様な奇声を上げてすぐさま手を引く彼女を更に詰め寄る。体重をかけないようにしてソファーへ押し倒し、己の顔を触れるか触れないかの位置まで近づけると、どちらのとも言えない熱い息が頬を掠めた。


「今日こそ、邪魔は入らないな」
「んふぁ、、降谷くんッ、、せめてベッド、で、、んんっ」


彼女の言葉など待たずにその唇を喰らう。キスだけなら何度もしてきたはずなのに、互いに興奮と期待をしているからかすぐさま体の中から熱くなっていくのがわかる。くちゅくちゅと舌を絡め合うことで生まれる羞恥心を煽る水音もただの興奮材料とかし、欲望をむき出しにさせていく。


「まっ、、んっ、て、ふるや、っくん」
「もう、、っん、、お前も降谷なんだから、、、はぁ、、降谷くんは、ないんじゃないか?、、ん」


唇を交じり合わせながらの言葉は酷く淫らだ。今すぐ彼女の全てを喰らい尽くしてしまいたいという獣のような欲求が体を動かし、複雑なウエディングドレスの紐へと指を掛ける。簡単には解けない紐はまるで俺を焦らしているかのようだ。


「っっ、ぁ、、れ、ぃ」
「ん?」


このまま脱がしてしまいたいという俺の意図を感じ取ったのか、彼女が困ったように小さく俺の名を呼んだ。微かながらでも久しく聞く事のなかった響は確かに聞き取れたものの、彼女の声でもっと聞きたくてわざと聞こえないふりをする。
恥ずかし気に狼狽える彼女が愛らしいから、更に追い詰める様に唇を解放し、鼻先がぶつかる程の距離でその眼を見つめる。


「ん?ちゃんと言って、茜」
「っ、、零。お願い、ベッドで…」


このおねだりは己の意図だったとはいえ、想像を超える破壊力に最後の理性もあっけなくもっていかれてしまった。
先程まで手間取っていた紐を引きちぎらんばかりの勢いで解き、ドレスを脱ぎ捨て軽くなったその体をすぐさまベッドへと押し付ける。今度こそ待ったはなしだ。


「今日こそ、お前のすべてを貰うぞ」


白い肌を薄紅色に上気させた肌は熟れた果実の様な甘い誘惑を放つ。
触れる度に微かに漏れる妖艶な音色も、誘うような素肌の熱も、全てが狂おしくて愛おしい。

持ち主を失くした真っ白なウエディングドレスがソファーからずるりとすべり落ちたことに気付きもせず、互いを求めあった二人は月明りさえも恥じらい姿を隠すほどに愛し合い、いつまでも一つに溶け合っていった。


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