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ペテンの鱗を絵空事にしないで 03

重々しい重厚感のある扉が背後で閉まる。
私の安い自宅アパートの扉とは違う音。自宅とは違う、絨毯が敷き詰められた室内。
あぁ、なんでこんな事になってしまったのだろうか。


山道を下った後、降谷くんが車を停めたのは何やらあまり見た事がないお高そうなスーパーだった。
華麗に駐車した後、待ってろと言われたのでそのまま車内で待機していれば、両手いっぱいの荷物を持って帰って来た降谷くんに目を見開いてしまった。


「え、なに??どういう事?このタイミングで個人的な買い物??」
「そんなわけないだろ」


俺をどんな奴だと思ってるんだと呆れた眼で見られたが、そんなこと言われても!とこちらが抗議したいくらいだ。
どういう事かという問いに対する答えはないまま、自宅周辺から遠ざかっていく車。何が何だか分からない。が、ココまで来てしまえば降谷くんにお任せするしかない。
ちょちょっとそこら辺の大衆中華で済ましてよかったのにな。
ご飯を食べようと言ってスーパーで大量に食材などを買い込むなんて…もしかして降谷くんのお家に!?なんて想像していたがどうやら違うようで、お高そうなホテルへと車を停める。
なんで迷わず駐車場に行けるのかとか、当たり前のように荷物を持って下りるのはなぜかとか、相変わらず疑問ばかり。今日はずっと驚きっぱなしで、どれだけマヌケな顔をしてしまっただろうか。


「何してんだ山崎?行くぞ」
「え?あ、ちょっと・・・」


なんでホテルなんですか!?そんな問いは口から出ることなく、急ぎ足で降谷くんの背中を追った。
勝手に熱くなる顔を抑えている私とは違い、堂々と歩く降谷くんの姿が妙に買い物袋と不釣り合いだと思ったのは、ロビーの高級感のせいもあるのかもしれない。
これまた手慣れた様子でチェックインを済ませ、スムーズに部屋まで通される。いつの間に予約の連絡をしたのだろうか。そして、そんな急でこんな良いところが空いているものなのだろうか。
むしろ高すぎたから空いていたとか?いやいや、だったらこの宿泊代はいったいいくらだというのだ。
ってか宿泊!!ホテル!!!


「・・・お前、すぐ顔に出るな」
「ふぇ!?」


部屋に入ってから悶々と考えていたからだろうか。ククッと楽し気に笑った降谷くんがゆっくりと近づいてくる。
手に持っていたはずの食材たちはいつの間にかキッチンへと運ばれていた。つまり、降谷くんの両手は自由という事で・・・思わず後ずさってしまった。
降谷くんといると時々身の危険を感じる気がするのはなぜだろうか。


「山崎は何を期待したのかな?」


ドンっ、という音と共に耳の両脇に伸びて来た降谷くんの腕。壁との間に挟まれ、あぁこれが俗世間で言う壁ドンというやつなのかとか他人事のように考えているのは降谷くんを直視できないでいるから。
壁ドンいいよ!キュンとする!なんて言っていた若い子よ。アラサーのおばちゃんには刺激が強すぎるみたいですよ。


「あ、無理、ゴメン。ほんとやめて」
「そういう反応されるのは傷つくんですが」


停止した思考から導き出された無の拒絶はどうやらお気に召さなかった様で、もっと照れるとか可愛い反応は無かったのかと呆れたため息をつきながら離れる降谷くん。
あなたはいったい私に何を求めていたんですか。私は盛大に照れた結果がこれですけどなにか?もっと恥ずかしがれって事?


「やぁだ〜はずかしぃ〜」


精一杯の猫なで声でそう言ってみたのに、一瞬の間があった後、お腹を抱えて笑い出した降谷くんは本当に失礼だと思う。


「もー!笑ってないで取り合えず状況を説明してよ!」
「笑わせたのは山崎だろ」


お前ってそんな面白いやつだったんだな、なんて目じりの涙を拭いながら言われても嬉しくない。ワザとらしく怒って見せれば形だけの謝罪が返ってくるが、反省なんてないんだろうな。本当に、これで安室さんと同一人物なんだから驚きだ。

改めてぐるりと見渡した室内は、どこぞの高級マンションの一室と変わらない立派なもので、普通にキッチンに置かれた食材に違和感がない。


「キッチンあるホテルなんて初めて見た」
「まぁ少ないよな。だからココにしたんだよ」


恋人でもないのに一人暮らしの部屋に行くわけにもいかないだろ?と当たり前のように言ったのは紳士的で良かった。なのに「まぁ勘違いされて困るような男もいなさそうだけど」なんて付け足されるものだから、その綺麗な顔をひっぱたいてやりたくなった。
なんで恋人がいないって決めつけられているのかと反論したいところだが、あれだけ一人でポアロに通っていれば言われてもしかたがない。
でもだからってこんなお高そうなホテル、ホイホイ来れるような場所でもない気がするのだが。やぱりなにかイケナイ事でもしているのかと疑いたくなる。


「山崎はテレビでも見て待ってて。すぐ作るから」
「え!?降谷くんが作るの??麻婆豆腐を!?」
「他に誰がいるんだよ」


手の込んだものは作らないぞと言い残しキッチンへと向かう降谷くんの後姿を見送る。
カッコよくて、高級車に乗っていて、仕事は分からないけど稼いでそうで、料理までできる。どれだけスパダリなんだこの人は。
何か手伝えないかとキッチンを覗いたが、慣れた手つきでスピーディーに調理する降谷くんに私は不要だと思い、そっとソファーへと戻った。私の手際の悪さをあえて露見する必要はないだろう。


「暇ならシャワー浴びてもいいぞー」
「なっ!?シャワっ、、、!えっ、遠慮しとく!!!」


ソワソワと落ち着きのない私を見てわざとからかってるんだろうけど、ご飯を作りながらもこちらを気にする余裕があるとか、どれだけ完璧なんだ。ちょっと意地悪ではあるけど。
私が慌てるのも想定内だったようで、「それは残念」なんて笑顔で言う降谷くんの手元は先程と変わらずスピーディーだ。
私ばかりが意識しているようで恥ずかしい限りだが、考えてみたらあの容姿なのだからさぞかし女の人にも慣れているのだろう。
何故だかモヤモヤした気持ちを無理やり心から追い出し、こっそりと深呼吸をして自分を落ち着かせた。
もっとも、ほどなくして出来上がった料理を前にしたらモヤモヤなんて感じてる余裕なんてなかったけど。


「すっご!!!美味しそー!!ちょっと降谷くん何者!?」
「自炊してればこのくらい誰でもできるようになるさ」
「ウソでしょ??無理だよ?降谷くん当たり前がちょっとズレてるんじゃない??」
「お前も大概失礼だな」


いいから食べるぞと先に席についた降谷くんにつられ、慌てて席に着く。あまりの豪華な食卓に自分の保存用にとお願いして写真を撮らせてもらった。
これが最後なんだし、降谷くんも一緒に撮ろうかと提案したが頑なに断られてしまったのは残念だったけど。

見た目も味も一級品の料理は箸を持つ手が止まらず、降谷くんに呆れられるほどたくさん食べてしまった。


「苦しい…食べ過ぎた」
「だろうな。それだけ食べれば当たり前だ」


妊婦かと疑うほどポッコリと膨れ上がったお腹をさすりながら空いた食器を流しへと運ぶ。そのまま置いておいてと言われたが、さすがに洗い物くらいはやらせてもらわないと申し訳なさ過ぎて後味が悪いと言って押し切った。
少しかがんだだけで苦しいお腹にうめき声をあげそうだが、食べたこと自体に後悔はしていない。だって、すごく美味しかったから。
でも食べ過ぎたのは事実で、出来ればしばらく動きたくない。ホテルを取ったってことは宿泊の可能性もあるとチラリと頭に浮かんだが、きっと降谷くんは始めからそんなつもりはないのだろう。


「あの〜、降谷くんお時間大丈夫ですか?」
「・・・動けないから少し休みたいってところか?」
「ご名答。かたじけないです」


流石に安室さんとして探偵をしているだけあって降谷くんの理解はすばらしい。洗い物を終えてお腹をさすりながらソファーへと深く腰掛ける私に、呆れながら時間を確認する降谷くんはもしかしてこの後予定があるのだろうか。
こんな遅くからの予定ってのがますます怪しい限りだが深くは考えない様にしよう。


「急いでるならいいよ!お腹いっぱいなだけだから」
「そうとう苦しそうだけどな。いいよ、休んでろ。俺はシャワー浴びさせてもらうから」
「っ!?どどど、どうぞ!!」


予定の前にシャワーが浴びたい。ただそれだけなのだろうが、ホテルでシャワーという単語を聞いただけで慌てる私に、降谷くんは楽しそうな笑い声をあげて「覗くなよ?」なんて言い残してバスルームへ消えていった。
おかげで変な想像が働いてしまい、熱くなる顔を隠すようにボフっとソファーへ顔をうずめた。


「あ〜もう・・・・。なんで、今日が最後なんだろう」


降谷くんはカッコイイ。一緒にいると楽しい。意地悪だけどなんだかんだ優しくて。
それは初恋の時のような何も知らないで好きだーとか言ってた幼いころの感想じゃない。

私は今、改めて彼に恋してしまったんだ


「ハハッ、恋した日に失恋決定かぁ・・・。悲しいわ、、、」


どんな事情があるかは知らない。
でも、もしも降谷くんが安室さんなんてしていなくて、普通に会社員とかしてて、普通に出会えていたのなら。何か違っただろうか。もっと私が頑張る隙があっただろうか。
なんて、もしもを思ったって所詮、それは絵空事。現実ではありえない空想の物語。
できることならば、もう少しだけ。彼といられる時間がありますように。

そう祈るように目を閉じたら、どうやら寝てしまっていたようだ。
病み上がりだったし、かなりの緊張をしていたのだから仕方がないという言い訳は通用するだろうか。


「目、覚めたか?よくこの状況で寝れるな」


降谷くんのドアップ。覚えのない浮遊感と密着具合。そして動く背景。

どうやら降谷くんに抱えられているようです。コレがお姫様抱っこというやつですかっ!!!!

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