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02 擦れて傷んで綻びて

「あー・・・」


結論から言おう。失敗した。むしろやらかした。やってしまった。
教室に戻ってきて早々に机の上に項垂れた私を見て紗良は察したらしく「どうしたの?」といつもに比べるとかなり優しい声で話しかけてくれるあたり流石だと思う。


「聞いてよ・・・やらかした」
「何を?」


伊佐敷先輩に直接会うまでは予定通りだったのに。その先を考えていなかったせいで頭が真っ白になってしまった私は、伊佐敷先輩を目の前にして何も言う事が出来なかった。
でも呼び出しておいて黙っているのも変だし、何か言わないと!と焦った結果。口から出たのは「伊佐敷先輩、私と仲良くなってください!」という、自分でもそれは無いだろ。と突っ込みたくなる一言だった。


「ハァ!?」
「いや、間違えました。今の無しで!」


それは伊佐敷先輩も同じだったらしい。廊下に響き渡るくらいの大きな声を上げた先輩は、驚きと怒りとどちらともとれる表情を浮かべていて。咄嗟に否定の言葉を口にしたけれど、どうやら逆効果だったというのが眉間に寄せられた皴を見て分かった。
ああ、もう。私は何をやっているんだろう。これじゃあ第一印象が悪すぎるよ。微妙な空気が漂う中、立て続けの失態に頭を抱えたくなった。


「伊佐敷ー、後輩脅してんなよ」
「脅してねぇよ!」
「純は顔が怖ぇんだよな」
「うるせえな!引っ込んでろ」


どう言えば上手く伝えられるだろうかと必死に考えを巡らせていた時、明らかに揶揄う声が投げられたので視線を向ければ、野次馬の如く教室から顔を覗かせた先輩のクラスメイトの姿。
伊佐敷先輩が強めに言葉を発したところで、怯むどころか楽しそうに笑いながら教室へ戻る人達を見て、これが先輩の日常なんだと思うとそんな場合じゃないのに口元が緩んでしまう。
さっき教室を覗いた時も思ったけれど、やっぱり伊佐敷先輩は皆から好かれているんだな。私も、あんな風に先輩と笑い合いたい。そう思いながら先輩をまじまじと見つめていたら、私へ視線を戻した先輩と目が合った。


「悪ぃな。で、結局何なんだ?」
「あの!やっぱり仲良くして欲しいです」
「ハァ?」
「私、伊佐敷先輩の事が好きなので。まずは仲のいい後輩から始めたいと思います」
「・・・ハァッ!?」


最早何度目か分からないハァ?の声を頂いたけど、大丈夫。私も自分が何を言っているのか良く分かっていない。ただ、心の中に浮かんだ言葉をそのまま口から発していた。
難しく考えるのは苦手だし、ぐだぐだと回りくどいのも性に合わない。野球部風に言えば、いつでも直球勝負!というところだろうか。


「それでは!また来ますので」
「ちょっ、おい!」


じゃっ!と片手を上げて踵を返すと、猛ダッシュで足を進める。背後から呼び止められた声にはちゃんと笑顔で返したし、掴みはバッチリだ。私頑張ったじゃん。と、ついさっきまでは思っていた。
でも、席に着いてから自分のしたことを振り返るとだんだん冷静になってきて、一連の流れを全て思い出したところで項垂れ、冒頭に戻るという訳だ。


「はぁ・・・あれほど言ったのに告白したの?」
「絶対アホの子だって思われた」
「いや、それは間違ってないからいいんだけど」
「次どんな顔して会いに行けばいいんだろ・・・」


勢いで告白しちゃったし、変な宣言まで・・・。何が好きなので仲のいい後輩から始めたいと思います、だよ。時間を巻き戻して自分の頭を叩きに行きたい。流石に何か切欠を作らないと会いづらいなぁ。
あー、それにしても伊佐敷先輩かっこよかった。野球帽を取って、ユニフォームから制服姿に変わっただけで随分と雰囲気も違ったけど、好みの真ん中どストライクだ。もっと沢山話したいし、先輩の事を色々知りたい。その為にはやっぱり切欠を作って会いにいかないとだね。
となると、やはり頼れるのは野球部しかいない!そう思い至って、項垂れていたのが嘘のように勢い良く状態を起こして席を立つと、再び川上くんの元へと足を進めた。「復活早すぎ」なんて紗良の声が聞こえたけど、今はこっちが最優先だ。


「川上くん!お願い!」
「な、何?」
「伊佐敷先輩の事、何でも良いから教えて!」

必死の形相で詰め寄る私を見て、またビクリと肩を揺らした川上くんは口元を引き攣らせながらあからさまに視線を逸らした。そんな顔したって、私だって切羽詰まってるんだから今は逃がしてやれないぞ。

「あっ」
「え、何?」
「あそこに居る工藤の方が詳しいと思うよ」


何かに気付いたように私の背後に向かって指を示した川上くん。その指の先を辿ってみれば、後ろで談笑している数人の男の子の中の一人を指していた。
同じクラスじゃないし良く分からないけど、工藤くんと呼ばれた彼も野球部なんだろうか。と、一人首を傾げていれば、川上くんから衝撃の一言が放たれる。


「寮で純さんと同室だから」
「なんやて工藤!」


それを聞くや否やぐるりと勢い良く振り返り、工藤くんを凝視した。クラスが違うのに、都合よくここに居るという事は・・・もしかしてこの事件の匂いを嗅ぎつけてきたのか名探偵。流石だな。なんて、驚きのあまりこの間見た国民的アニメの台詞をつい言ってしまったが、川上くんが本格的に怯えてるからふざけるのはやめにしよう。
怯えてる姿が小動物みたいでちょっと可愛いいけど。


「何か呼んだか?」
「工藤くん?初めましてで悪いんだけど・・・ちょっと協力してほしくて」
「協力?」
「うん。二年の伊佐敷先輩の・・・好きなものとか知ってたら教えてくれないかな?」


話す切欠を作り、尚且つ仲良くなるためには本人の好きなものを知るのが一番いい。食べ物でも趣味でも何でもいいけど、もし何か一つでも私と一致する事があれば話も広がるし、距離も縮める事が出来るから。
それにしても、伊佐敷先輩と同室だなんてうらやましいな。朝起きてから寝るまで・・・しかも部活も一緒って事は、一日の殆どを伊佐敷先輩と過ごせるんだよね。いいなぁ。一日でいいからそのポジション変わってくれないだろうか。


「んー。よく焼肉食いてぇ。って言ってるけど」
「焼肉好きなんだ!?男らしくて素敵!将来のためにメモっとこ」
「あとは・・・」
「何か伊佐敷先輩が興味ありそうな事とか」
「ああ、だったら少女マンガとか」


少女マンガ!?え、伊佐敷先輩少女マンガ好きなの?なにそのギャップ・・・可愛い。先輩が少女マンガを読んでいる姿を想像しただけで、胸にズドンと矢が刺さったような気がした。
何を隠そう、私も少女マンガは大好きだ。新刊は常にチェックしてるし、家にもそこそこの冊数がある。これはもう決まりでしょ!お気に入りの少女マンガを持って伊佐敷先輩に突撃するしかないよね!


「ありがとう工藤くん!恩に着る」
「あ、あぁ・・・」


待っててね、伊佐敷先輩!

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