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02 お説教は聞き飽きました

「どこか行きたいところある?」
「え、えっと・・・この辺よく知らないから任せるよ」
「俺もまだそんなに詳しくないけど。とりあえず適当に歩こうか」


ゆっくりと歩き出した亮くんの背中を追う。もう少し一緒に居たい、我儘を言うならこのままどこかに出かけたい。そんな私の願いが叶えられるなんて思ってもみなかったから、突然降って湧いたこの状況に緊張してきた。

少し前を行く亮くんは、身長は私と然程変わらないのに後姿は紛れも無く男の人だ。広い背中とか肩幅とか、幼い頃とは全然違う。小さい頃なら迷わず繋いでいたその手も、今はきっと大きくて私のものとは違うんだろう。
何で昔は気軽に触れられたのか不思議で仕方ない。もし今手なんて繋いだら・・・なんて想像するだけで恥ずかしくて手汗が滲み出しそうだ。


「亮くん、大学って楽しいの?」
「高校よりは自由だね。でも結局野球ばかりだし。そんなに変わらないよ」
「そうなんだ。あっ、今一人暮らししてるんだよね」
「うん。ワンルームだし狭いけど」


緊張を隠すように矢継ぎ早に話し掛けてみたものの、亮くんの今の生活を聞けば聞くほど違いが浮き彫りになっていく。中学と高校で離れた時も多少はあったけれど、ここまでじゃなかった。高校生と大学生の差は、やっぱり大きい。


「いいなぁ。私も一人暮らししてみたい」
「お前には無理なんじゃない?泣き虫だし」
「泣き虫って、昔の話でしょ!」
「そう?今でもあまり変わらない気がするけど」


ああ、もう。落ち込むなぁ。亮くんのいつもの軽い毒舌でさえグサグサと心に刺さる。亮くんの前で泣いた事なんて・・・多分小学校の時までなのに。
亮くんが青道に決めたって聞いた時も泣いたけど、あの時は亮くんの前でじゃないし。それでもまだ亮くんの目には昔のまま、泣き虫に映っているのだろうか。これが揶揄っているだけなら別にいいんだけど。


「ここでも行く?」
「え?」
「この先に行っても多分何も無いし」


亮くんが示したのは複合商業施設。何年か前にオープンした時、その広さから話題になった場所だ。「うん、行ってみたい」咄嗟にそう答えたのは、亮くんの好みを聞けるチャンスかもしれないと思ったから。
まずは服装から。なんて安易な考えだけど、好きな人の好みを聞ける機会なんて滅多にない。亮くんに近づくための第一歩だ。

見たい店があったら言って。亮くんがそう言ってくれたのをいい事に、専門店街を歩き回る中でチラチラとディスプレイされている服を確認しながら、いつもは選ばないような大人っぽいデザインのものや少し露出したものが目に入るとお店の中まで入ってみた。


「亮くん、こういうのどうかな?」


手に取ったのは肩口が露出しているストラップオフショル。普段なら絶対に選ばないそれを手にとり、自分の前に当ててみる。かなり冒険だな・・・いざ着るとなるとちょっと恥ずかしいかもしれないけど、でも男の人っていういうの好きっていうよね。

そう考えたところでふと思う。何かこのやり取りって恋人っぽいかも。傍から見たら彼女が彼氏に聞いてるように映ってるのかな。妹じゃなくて、彼女が。
そんな浮き足立った私の気持ちを一気に冷静にさせたのは「うーん、いまいち」と余り感情の籠っていない亮くんの一言だった。


「えっ」
「似合わないわけじゃないけど」
「けど?」
「似合うわけでもない」


躊躇いなく言われた言葉に肩を落としながら服を戻す。亮くんはお世辞で可愛いとか言うタイプじゃないもんね。こういう時にはっきりと言ってくれるのはありがたいけど・・・凹む。


「じゃあ、こっちのは?」
「それよりもコレとかにしたら?今日の服もこんな感じだろ」


亮くんが渡してきたのは私の好みドンピシャなものだった。普段なら間違いなく即購入していると思う。
でも、それだと意味が無いんだよ。だって今日の目的は亮くんの好みで、尚且つ少し大人っぽく見えるものがいいんだから。そう言えたらいいんだけど言える筈もなく。結局「ちょっと保留で・・・」なんて煮え切らない返事しか出来なかった。


「亮くんが好きな女の子の服装ってあるの?」
「別に?その人に似合ってれば何でもいいよ」


回りくどいのはやめて直球で聞いてみれば、返ってきたのは簡単だけど難しいものだった。
私に似合ってるものって言ったら、やっぱり年相応のものだよね。顔立ちはどちらかと言えば童顔だし、身長も平均的。大人っぽく背伸びした服は今の私には似合いそうにないよ。
とりあえず亮くんの意見は聞けた事だし、このまま続けても及第点すら貰えるかどうかあやしい。だから、一先ず服はお預けだ。今度家でファッション誌を熟読するとしよう。


「あ、ねえ。亮くんって何か付けてる?凄くいい匂いする」
「ああ。部活がない時はたまにね」
「いいなぁ。私も何か買おうかな」


そうと決まれば次は会った時から気になっていた亮くんの香りについて。多分ここだったら専用のショップもあるだろうし、一緒に行って選べたらいいな。という軽い気持ちで言ってみたのに、亮くんは訝しげな顔で私をジッと見据えた。


「楓さぁ」


ドキリ、と心臓が跳ねたのは疚しい気持ちがあるからに他ない。
真剣味を帯びた声で呼ばれた名前。答えた私の声もまた、さっきとは違い少し固くなって閉まった。


「何・・・?」
「彼氏でも出来たの?」
「え?」


彼氏?想像の斜め上をいく問い掛けに一瞬何を言われたのか理解出来ず、戸惑っている内に亮くんはそのまま言葉を続ける。


「まぁ気持ちは分かるけど、あまり露出とかし過ぎるなよ。夏も近いし変なヤツも増えてくるんだからさ」


これはもう、決定的じゃないか。分かってはいたけど、亮くんは私の事を妹としか見ていない。私に彼氏がいようがどうでもいいんだ。ただ、似合わない服装や香水に手を出すのを兄として窘めているだけ。


「ただでさえ危なっかしいんだから」


今は、お説教なんて聞きたくないよ。

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こういう何でもない話書くの苦手なんです・・・前半つまんないですよねごめんなさい。
最後の方だけを書きたくてがんばりました!亮さんは自分が恋愛対象に見られてるなんて微塵も思ってないんでしょうね・・・


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