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alea iacta est 前編


「麻生、おはよ!」
「おー」


朝練終わりだからかダルそうな返事はいつものこと。
麻生が座っている後ろの席へ乱雑にカバンを置いて椅子へ座ると、ノートを机に仕舞うフリをしながら目の前の麻生をジッと見つめる。
席替えで麻生の後ろの席になってからの日課だ。

真ん中の列の更に真ん中という何とも微妙な席に当たってしまって溜息を吐いていたが、同じようにブツブツと文句を言いながら目の前の席に着いた麻生を見て、この時ほど自分のクジ運に感謝した事はない。
だって、好きな人の後ろの席とか最高じゃない?

今日は髪の毛の上の方が少しハネてる、とかそんな些細な事まで分かっちゃうし。
本人に気付かれる事なく見ることが出来るんだよ?


「ねぇ、麻生」
「あぁ?ンだよ」


話のキッカケさえ用意しておけば、いつだって気軽に話しかける事が出来る。
こうして肩をポンポンって軽く叩けば、面倒臭そうにだけどちゃんと振り返ってくれるし。触れる事が出来るのと、話せるので正に一石二鳥。
しかも机一つ分よりも近い距離で話せるとか、普通ならありえない事だって簡単に出来ちゃう。


「この前教えてもらったアプリのゲーム、ここから先に進めないんだけど」
「お前こんな簡単なのも出来ねーとか、ヘタクソかよ」
「うるさいなぁ。女の子にはもっと優しくしてください」
「俺はいつでも優しいだろーが!」


私のスマホを操作しながら軽口を言い合っていたが、不意に麻生が私の方へチラリと視線を送ってきて、ドキリと心臓が跳ねる。
そう、ひとつだけ問題があるとしたら、麻生に私の気持ちがバレてしまわないか。という事。
好きだからこそ、この距離だったり話せる事はとても嬉しいんだけど、心臓はバクバクとうるさいし、こうして視線を送られるだけで顔が赤くなってしまいそうだ。


「あ、可愛いコ限定だったわ。悪ィ悪ィ」


まぁ、こうして上げて落としてくるから高揚した気分が下がるのも一瞬なんだけど。
悪びれなく言ってのけるその台詞に、一言一句に踊らされてるのに気付いて欲しいと思う半面、気付かないで欲しいとも思う。
矛盾するこの心は自分ではもうどうしようも出来ない。
いっそ、想いを伝えてしまったら楽になるのかとも思うけど、麻生のこの態度を見る限り見込みはなさそうだし。そうなるとやっぱりもう少し様子を見ようってなるよね。


「麻生好みの可愛いコは、みんな御幸くんの事が好きらしいよ?」
「ハァ!?どこ情報だよソレ!」
「女子の情報網ナメんな」
「ありえねーだろ!ゼッテェ俺の方がイイ男なのによ!なァ!?」
「ははっ、そーだね」


ほら、今の一言にしたってさ。どれだけ勇気がいったか分かる?
それでもきっと、麻生には響いていないんだろうけどさ。顔色の一つも変えてないんだもん・・・ちょっと悔しい。
麻生の魅力なんて、皆気付かなくていい。私だけ知ってればそれでいいんだよ。
野球をプレーしてる時はカッコいいのに、口を開けば残念なところとか。どこから来るのか分からない自信満々なとことか。気さくに話してくれるところも、ニッて笑った笑顔がちょっと子供っぽくて可愛いところも。
あぁ、ダメだ。麻生の事を考えていると止まらなくなる。


「ほらよ。これで先に進めんだろ」
「あ、りがと」


手元に落とされたスマホを見ると、ゲームの画面が表示されていて、出来なかったところがクリアされていた。
麻生と話すキッカケになればと思って始めたゲームは然程興味を抱けなかったけど、やっぱりやめられそうにない。だって、こういうやり取りが出来るんだから。

悪態をつきながらだけど、ちゃんとやってくれる優しいところも、好き。
何となく、本当に何となく。
声に出せない今のこの気持ちを文字にしてみようと、ゲームのアプリを閉じて緑色のメッセージアプリを立ち上げる。
トークルームから変なアイコンをクリックすれば、先日交わした麻生とのメッセージが目に入ってきた。

既に自席に座りなおしてしまっている麻生の背中をチラチラと眺めながら、ゆっくりと文字を入力していく。


【麻生のことが好き。大好きです。】

なんて、絶対口に出して言えない言葉もこうして文字にするのはとても簡単だ。
いつかこの気持ちをちゃんと伝えれたらいいな。そう思いながら文字を一つずつ消そうと消去ボタンを押した。
押した・・・つもりだった。

なのに、シュッとトーク画面に上がってしまった文字にサァッと顔から血の気が引いていく。
なんで、どうして。戸惑ってももう遅い。
削除が出来ない仕様になっている限りどうしようもなくて。こんな時に操作ミスをしてしまう自分を心底恨んだ。

受信した事に気付いたのか、麻生が制服からスマホを取り出す仕草を見せた時には、これ以上ないくらい心臓が騒ぎ出して。思わず逃げたくなったけれど、もうすぐ授業が始まるしそれも出来そうにない。

教室の真ん中。
どこにも隠れる場所なんてなく、出来る行動といえば机に突っ伏すくらいしか思い浮かばなかったが、何もしないよりかは。と、実行に移した。


「・・・は?」


前の席から疑問の声が上がったのを聞いて、肩が跳ねる。
見て・・・しまったのだろうか。麻生はどう思ったかな。振られたらどうしよう。
ぐるぐると目まぐるしく感情が振れて、動揺と緊張で涙がジワリと込みあがってきた。


「松浦」
「・・・」
「おいコラ、無視すんな!」
「・・・なに」


突っ伏している頭を上げる勇気はない。
視界は暗闇のまま、なんとか声だけ発したけれど、今の自分の気持ちを表すような弱々しい声しか出なかった。


「なんだコレ。冗談か?」


笑えねーんだけど。そう続けた麻生の言葉に、グッと手を握り締める。
もう、この状況では覚悟を決めるしかないんじゃないのか。じゃないと、本当に冗談で終わってしまう。
消すつもりだった文字だけど、そこに込めた想いは嘘や冗談なんかじゃない。


「・・・本気だよ」


まだ声は弱いままだけど、文字じゃなく・・・言葉で、伝えよう。


「麻生が好き」
「は・・・?え、ハァ!?」


涙が滲んでいるせいか、戸惑っているらしい麻生もぼやけて見える。
それでも視線を逸らさないように見つめれば、漸く冗談じゃないと伝わったのか沈黙が流れた。

何でもない朝の時間に、教室の真ん中で告白をするとは思ってもみなかった。
クラスメイトの話し声がそこかしこで聞こえるが、多分私たちがこんな話をしているなんて誰も思っていないだろう。
ムードも何もあったものじゃないけど、逆に私達らしいのかなって。そう思えば少し笑えた。


「返事はいいから」
「・・・なんでだよ」


滲んでいた涙を拭いて、視界をクリアにしてからもう一度麻生の方を見る。
今麻生が何を考えているか分からないけど、こうなったら女は度胸だ。


「彼女が欲しいとか、適当な理由で付き合ってほしくないし。ちゃんと好きになってもらいたい」
「ッお前!よ、よくそんな恥ずかしい事言えるな!」
「だから、麻生がもし私の事好きになってくれたら、その時は麻生から告白してよ」
「いや、待て。ちょっと待て」

私の言動で何一つ顔色を変えなかった麻生が、今は動揺してほんの少し顔を赤くしている。
今はそれだけで満足してあげるから。


「毎日後ろから念送っておくね」
「怖ぇよ!やめろよ!」


気持ちを知られてしまった以上、あとはもう頑張るしかない。
麻生に好きになってもらえるように、もっともっと頑張るから。
だから、ねぇ。
いつか麻生の口から、同じ言葉を聞かせてね。

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麻生尊ってご存知ですか?(笑)大好きなフォロワーさんが推してるので頑張って書いてみました!しかし拭えない誰コレ感・・・しかも続きますw
write by 神無



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