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alea iacta est 後編


最近、どうもいつもの調子が出ねぇ。
理由は分かってる。分かってるけど、考えれば考える程調子が狂ってくからどうしようもねーんだ。


「麻生、おはよー!」
「・・・おー」


原因はクラスメイトで、後ろの席の松浦楓。
女子の中ではゲームの話題も通じるし、冗談交じりに気軽に話せてダチとしてイイ奴。一ヶ月前まで、松浦に対して俺の評価はこんな感じだった。

それが、あの日。
いつもみたいに朝のくだらない会話の後で、突然スマホに届いたメッセージ。

【麻生のことが好き。大好きです。】

待ちうけ画面に表示された通知は目を疑うものだった。
ロックを解除してアプリを開いて見ても、やっぱり変わらない内容。
今しがた話していた松浦が何を思って送ってきたのかは知らねぇが、どうせいつも俺が彼女が欲しいって言ってるから、粗方からかおうとでも思ったんだろう。
冗談じゃねぇ。隣のクラスのユミちゃんだったら喜んでノッてやるけど、相手は松浦だ。

そう思って後ろを振り返れば、ニヤニヤと笑っている松浦がいる・・・と思ったのに、俺の予想は外れて松浦は机に突っ伏していた。声を掛けてみても何も反応がなくて、もう一度強く言えば漸く「・・・なに」という弱々しい一言が発せられる。

いつもと違う様子に不思議に思い、まさか・・・そう過ぎった可能性も、やっぱありえねぇよな。と一瞬で否定した、のに。


「本気だよ、麻生が好き」


顔をあげた松浦はしっかりと俺に目線を合わせてきて、そのまさかを言ってのけやがった。
いつもと違う潤んだ瞳は何かを訴えているようで、逸らすことが出来ない。
真剣なその表情は冗談を言っているようには思えず、いつもと違う雰囲気に心臓がドクドクと速く脈打ち始める。

思えばこんな風に松浦と向き合った事なんて無かったんじゃねぇか?
睫毛とか長ぇし、唇はリップのおかげなのかうるりと柔らかそうだ。
今の今まで感じなかった女を急に意識してしまって、何か言わなきゃと思うのに言葉が出てこない。

ずっと彼女が欲しいと思ってた。松浦は話も合うし、別に断る理由だってない。
ここで俺が頷けば、朝起きてから夜寝るまでの男まみれの生活もピリオドってやつじゃねーの?
野球漬けも悪かねぇが、俺だってケンゼンな高校男子。彼女とシたい事は1つや2つなんかじゃ納まらねぇしな。

だけど、段々と邪な方へ進んでいく思考を見透かしたように「返事はいいから」と言う松浦。その意味が分からなくて首を傾げながら聞けば、ちゃんと好きになってもらいたいだの、告白してくれだのと聞くのも恥ずかしい言葉を並べきて、段々と顔が熱くなって来る。


「毎日後ろから念送っておくね」


なんて、冗談か本気か分からない台詞でその時の会話は終わったけど、そんな事言われたらどうしたって気になっちまうだろ。
今だって、後ろの席でゴソゴソと動いている松浦を過剰に気にしてしまう自分がいて。ただ教科書とかをしまっているだけだと思うのに、気にしないようにすればする程意識してしまう。

今だけじゃない。授業中に前から回ってきたプリントを渡す時とか、身体を捻って後ろの松浦へ渡すだけなのに、目が合った瞬間に笑いかけてきたりするんだぜ?
それに一々惑わされる俺もどーなんだって話なんだけどよ。
とにかく、あの日から俺の調子は狂わされっぱなしで、今まで松浦にどう接してたか考えちまうくらいには戸惑ってる。


「ねーねー、麻生」
「・・・んだよ」
「ここ、ここがどうしても出来ないの!」


だけど、当の本人は本当に俺に告白してきたのか?って疑うくらいいつも通りでゲームの話を振ってきやがるし。俺ばかりが振り回されてるようで、何だか気に食わねぇ。

平気で詰めてくる距離。そのせいで俺に届く香水だかシャンプーだかの匂いが気になってコッチはゲームどころじゃねぇっつーの。


「こんなのも出来ねぇとか、マジでこのゲーム向いてないんじゃね?」


動揺を隠すように悪態を吐きながらゲームを確認してみると、また同じようなトコで躓いてて全然先に進んでねぇし。キャラだって弱い上に、なんでこの装備?ってのを付けてて頭を抱えたくなるレベルだ。
これだったら、女子がよくやってるキャラクターのパズルゲームでもやっとけよ。


「分かってるけどさー。麻生がやってるゲームだから」
「・・・は?」
「麻生がやってるから、私もやってるだけだよ」
「・・・は?」


松浦の言葉の意味が分からなくて聞き返したのに、更に続けられた言葉に理解が追いつかず手元のスマホから松浦へと視線を移せば、「好きな人がやってるものって、興味あるじゃん?」口元に弧を描きながら小首を傾げるその仕草とともに告げられた決定的な言葉。
今までだったら絶対に見せなかった仕草や表情は絶対狙ってやってるって分かってるのに、単純な俺の心臓はドクドクと鳴り始める。

ホント、こういうトコなんだよ。
いきなり女を見せてきたり、恥ずかしげもなく好きだとか言ってきたり。
不覚にも、か・・・かわいいとか思っちまうからマジでやめて欲しい。


俺だってそこまで鈍感じゃねぇから、煩くなる心臓や後ろの席を過剰に意識する意味を、もう何となく分かってる。
分かってるけど、イマイチどう伝えればいいか分かんねぇ。


「あれれ?麻生くん、耳が赤くなってますけど?」
「うっせーな!何でもねぇよ!」


考えていた事が顔に出ていたのかと手の平で指摘された耳を擦れば、確かにアツい。
逃げるように前へと向き直って、思考を遮断するように途中になっていた松浦のスマホゲームへと集中する。
装備を変えて、パーティーを変えて。躓いているらしいボス戦へと繰り出す。
どんどんHPを削っていく単純な作業を繰り返しているうちに、脈拍もだいぶ落ち着いてきた。


「ねぇ」
「今ボス戦だから話しかけんな」
「そろそろ麻生から・・・聞けるのかな?」
「・・・知らねーよ」


ゲームクリアの表示と同時に言われた言葉にビビッて、思わずスマホを落としそうになったのを慌てて掴みなおす。
落ち着いていたと思った気持ちは一瞬で焦りと動揺をに変わり、右手で乱雑に髪の毛を掻き乱した。

あぁ、もう!知らねーよマジで!
松浦みたいにアッサリ言えねぇんだよ悪かったな!

動揺したまま、手にしていた松浦のスマホをタップする。
いつも見ているゲーム画面のメモ欄。よろしくおねがいします、と定型文で打ってある文字を削除して、半ば投げやりで入力した三文字。

入力画面のまま後ろの席へと投げるように返して、あの時の松浦のように机に突っ伏す。視界が遮断されたことで若干冷静になるが、今自分がした行動を思い返すと変な汗が背中をつたった。
あの時の松浦も、こんな気持ちだったんだろうか。


「あ・・・麻生!ねぇ、麻生!」


そんな俺の気持ちなんかお構いなしに、容赦なく背中をバシバシと叩いてくる松浦の声は弾んでいて。あぁ、見たんだなと確信する。

一ヶ月前と同じ、クラスメイトがざわついている朝の教室のど真ん中。
どう頑張ったって素直に口に出して言えそうにない俺がスマホに打った「好きだ」の3文字。
顔を上げて振り返った瞬間、俺と松浦の関係は変わるだろう。


「痛ぇよ!叩くな」
「スクショしたから!」
「すんなバカ!今すぐ消せ!」
「やだ!へへっ・・・嬉しい」


まぁ、関係が変わったところで、いきなり甘い雰囲気なんか出せるわけねーんだけど。
松浦が嬉しそうに笑うのを見て、もうちょっと頑張ってやってもいいかな。って思ったのは悔しいから黙っておく。




麻生視点で終了です!思いのほか麻生が可愛くなってしまって・・・うん。
またお願いされたら麻生を書くかもしれませんw
write by 神無



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