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危険なブランコ 前編

夕日がかなり低くなってきた帰り道。
もうすぐ4月とはいえ、まだ日がなくなると肌寒く感じる気温に腕をさする。


「どうした?」


普通の人なら「寒いのか?」とわかるような行動も、この人には通じない。
隣を歩く彼が不思議そうに首をかしげるので、ちょっと汗が冷えて寒いだけと素直に返す。

この人、牛島若利には直球じゃないと通じない。
幼き日にそう学んでから、もう15年以上。
どこまでも素直に育ってしまった彼は、自分が直球だからなのか回りくどい言い方は全く伝わらない。

毎年バレンタインに手作りをあげようが「義理堅いな」で終わってしまうし
クリスマスに誘っても「部活だ」の一言だし

ま、そんな彼も私が他の男の子と仲良くしてるところを見て自分の恋心に気づいてくれたみたいで


「今更かもしれないが葵、俺はお前が好きだったようだ」


と、その男の子がいるにもかかわらずその場でいきなり言ってきたんだよね。
あれは衝撃だったわ。

チラリと隣を歩く彼を見上げる。前まではただの幼馴染として歩いていた帰り道。今は恋人として一緒に帰ってるんだと思うと顔がにやけそうだ。


「なんだ?寒いと顔もおかしくなるのか?」
「違いますー!もー!若ちゃんみてニヤニヤしてただけですー!」
「?なぜ俺を見てニヤニヤするんだ?」


ニヤニヤしてると素直に言ったってこれだもん。
本当にこの人私のこと好きなのかって疑いたくなるよ。

全然わかってない若ちゃんに「若ちゃんだからですー」と返し、プイっと視線をはずす。へんな奴だと鼻で笑われている気がするけど気にしてられない。若ちゃんに乙女心をわかってもらえる日なんて期待できないのだから。

ちょっぴり不貞腐れながら向いた先には公園があり、そろそろ帰る時間だろう子供たちがまだ遊ぶーとばかりにはしゃいでいた。
その光景をほほえましく見ていると、大きな「あー!」っという叫び声とともに、勢いよくボールが飛んできた。

しかもバレーボール

条件反射とでもいうべきか、絶妙な高さに飛んできたボールを鞄を持ったままアンダーでレシーブし、真上へ上げる。そのボールを若ちゃんがアタックモーションでかる〜く打てば、弧を描いたボールが駆け寄ってくる男の子の元へと飛んで行った。


「若ちゃんナイスコントロール!あんな優しく打てるんだね!!」
「昔、片付けの時によく籠に向かってやっていたからな」


あー1年の時の話かな?
このほうが早いよとか言ってやりそうだよね…天童君あたりが。どうせ早く終わらせたら帰って練習できるしとかいうセリフでやっちゃったんだろうなー。

若ちゃん、バレーバカだからね。
なんて妙に一人で納得していると、勢いよく子供たちが駆け寄ってくる。


「すげーっ!!!お姉ちゃんとお兄ちゃん上手ー!!」
「カッコいーー!!どうやってやるのー!教えて教えてー!」


気づけばわらわらと5・6人の子供に囲まれてしまった。


「残念ながら、すぐに上手にはなれないんだな〜」
「「「えーー?」」」


今すぐにでもやりたいだろう子供たちは口々に不満を漏らす。
でも、何事もすぐにできちゃうほど簡単ではないのだよ。


「たーーくさん練習するとできるようになるよ!こんな風に」


そういって女の子が差し出していたボールを受け取りワンハンドトスで若ちゃんへ送る。
鞄持ったままだしね。

若ちゃんは肩掛けなので両手が空いている状態。
私のニヤリとした笑顔で察してくれたのかオーバーハンドで答えてくれる。
そのままボールを落とさずに互いの距離をひらいていく。もちろんその間、私は片手だけど。
おー!という子供たちの歓声に気をよくしてしまい、一番若ちゃんが打ちやすい所へトスをしてしまった。

あ、クル。
そう思った時には鞄を投げ出して両手で構えていた。

若ちゃんが軽くジャンプして打ったアタックは、先程までと全然違う重たい音を放ち私へと向かってくる。腕に当たる衝撃。久しぶりの感覚に思わず笑みがこぼれてしまうのは、私も相当なバレーバカなのかも。もちろん若ちゃんは全然本気じゃない。

それでもこの威力なんだから子供達には絶大なパフォーマンスになったようだ。
あちらこちらで「すげーーー!」「カッコいーー!」って声が響いている。

私のレシーブはかなりホームランだけどね。

若ちゃんを超えて飛んで行ってしまったボールを慌てて取りに行ってくれた男の子が
「おに―ちゃん取ってねー!」と言いながらこっちにサーブを打つ。
ボールが来たら反応してしまうのがバレーバカで、ついついまたパスが続く。今度は子供たちも混ざり、次第にチームに分かれるような形になりドンドン試合形式っぽくなっていった。



「いーかげん帰るわよー!」


そんな声が響いたのはどれ位たってからだろうか。
久しぶりのただ楽しいだけのバレーに夢中になりすぎていたようだ。

「またやろーね!」「いっぱい練習して上手になるからね!」「次は勝ーつ!」なんて口々に言いながら母親の元へ帰っていく子供たちに手を振りその背中を見送る。
ちょうどあの子たちが最後だったようで、にぎやかだった公園は見事に静かになっていた。


「ん〜楽しかったし・・・懐かしかったー!」


無邪気にボールを追う姿が昔の自分と重なっていた。若ちゃんとよくやっていた公園バレー。今の私たちがあるのもこの頃のおかげかもしれない。


「そうだな。俺たちも良く公園でやっていたか」
「そうそう!ブランコとか乗りながらパスしたり〜」


パスといってもほぼキャッチボールだったけど。
あれは無謀だったねーなんて思い出して笑った。


「ねぇねぇ!今ならできるかな?」
「・・・くだらん」
「そんなこといって〜あ、若ちゃんバレー以外不器用さんだから難しいか」


一人でやってみよーとブランコへ行き、持っていたマイボールを取り出す。
しばらくこいで勢いをつけてから手を放し、一番ブランコが高く上がったところで高いトスを上げる。

ブランコ一往復分。その高さはやっぱり一発ではわからず、折り返して落下位置に行くころにはすでにボールが下から跳ね上がっていた。


「うぉ!意外と難しい―!」


確かに昔はこの出来なさ加減に笑っていた気がする。
あの頃ってなんでボールが跳ねるだけで笑えるのか不思議だわ。

ブランコに当たって転がっていったボールを拾おうと立ち上がったところに若ちゃんがずいっと現れる。


「あ、ボールありがとー」
「代われ」


ですよねー。
若ちゃんがボール拾ってきてくれただけなんてことはないよね。ちょっと煽ったし。やる気になってくれたところを邪魔しちゃ悪いのでさっと立ってブランコを譲る。

一度は私と同じ現象になり失敗。もう一度と言うのでボールを拾って渡すと、すぐにコツをつかんだようで、今度は何度か一人トスが続いている。


「若ちゃんすごーい!さすが!」
「葵もやるぞ。そっち座れ」


そう当たり前のように指さす先にあるのは幼児用の転倒防止のついたブランコ。
確かに昔から体の大きかった若ちゃんがそっちで、私がこのピンクの奴だったけど…私が躊躇う意図が分からない若ちゃんは「どうした?やるぞ」と不思議そうにせかす。

これって大人が乗っても良かったんでしょうか。むしろ乗れるの??
恐る恐るバーを上げ、何とか体をくぐらせ腰を下ろす。
ジャストフィットを少し上回るような窮屈さにヤバイと思ったが、私が座れたのを確認するや否やパスをしようとする若ちゃんにつられ、そのまま漕ぎ出した。

昔よりも続くパスに楽しくて忘れそうになったが、緊急事態はすぐに来ることとなる。
タイミングが合わず受け損ねたボールを拾おうと腰を上げると、いつもの何倍も重たいお尻。振り返ると想像がついてしまった通り、見事にブランコがハマったままになっていた。

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初めての牛若さんは暴走気味です。

大人になって小さなブランコに座ったことありますか?
あれ、本当に危険ですから(笑)

write by 朋


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