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あの日の君が 番外編@


「う〜〜寒くなったね〜」


すっかりお日様も隠れてしまった秋の夜。
だんだんと朝晩の気温が下がり、頬に当たる風の冷たさが増してく。


「寒いか??ジャージしかないけど着るか??」


練習中は脱いでたしそんなに汗臭くないとは思うけど、とカバンを探ろうとする夜久君に大丈夫と静止の声を掛ける。


「皆みたいに動いてないから温まってないだけで震えるほどの寒さじゃないよ」


夜久君は寒くない?って聞いたらあっちーっと返って来たので笑ってしまった。
今の今まで張り切って部活をしていたのだから無理もないけど。

猫又監督の発案でマネージャーもどきみたいな事をさせてもらう様になって、もう3ヶ月が過ぎた。夏休み前だったあのころから季節は変わり、それが夜久君との付き合ってる長さになるかと思うと胸が温かくなる。

なんだか色々あったな…。付き合い始めの頃はやはり陰口を言われたりもした。
「あれ?あの子ちょっと前まで違うやつと付き合ってなかった?もう次?」だとか「男の方も別の女といたしお互い浮気だったんじゃない?」とか


「なんか軽いよねー」


そう噂されているのが嫌でも聞こえてきてしまう。

ただ、不思議とその事についてはあまり気にならなかった。どんな時でも大丈夫って思えるだけ、夜久君から優しさを貰っていたから。それよりも・・・

その現場に出くわした時に夜久君が「俺が口説き落としたからな。いいだろ」って言うものだから恥ずかしさで居た堪れない方が気にかかった。嬉しいけど心臓に悪いです。

でもそのおかげで夜久が高宮にべた惚れと言う噂も広まり、気付けば軽い女発言はされなくなっていた。今では仲の良いカップルとからかわれるほどだ。


そうなれば友達から聞かれるのは「もうやった?」って思春期らしい興味本位の質問。
勢いよく首を振る私に「ま、あんた初めてだもんねー」とか「大事にされてるね」とか温かく見守ってくれていた友人も、3ヶ月過ぎても首を振り続ける私に「大丈夫?」と態度が変わってきた。


「機会がないの??」
「あ〜夜久って部活続けてんだっけ」
「受験もあるのによくやるよね」


頑張るね〜なんて口々に言う友人たちは納得しかけたものの、それでもっ!と話を盛り返す。
熱くなる友人たちに曖昧な返事を返しながら、自分の中でも次第に大きくなるモヤモヤを必死に隠した。


「ま、部屋行くときとかあれば直接聞いてみたら?」


自分から動かなきゃ何も変わらないよと優しく背中を押してくれた友人たちに感謝をしたのが今日の昼の話。でもその時は言えなかった。まさか、今日夜久君が家に来ますとは。




「ただいま〜」「お邪魔しまーす!」


2人揃って玄関に入り扉を閉めれば、先程までの冷たい風は無くなり心なしかほっと温かな気持ちになる。こうやって夜久君と2人で帰ってくるのは今日が初めてではない。
1ヶ月くらい前だったか、休みの日に勉強の為家に来た時に課題の話になり、アレヨアレヨという間に親にも丸め込まれ課題が多く出た日はうちに来て勉強するって事になったのだ。

部活後だと疲れて寝ちゃいそうになるんですよね〜なんて夜久君が言ったからかもしれないが。なにより、男の子が欲しかった親からしたら夜久君が来ると息子が出来たみたいで嬉しいらしい。
勉強もリビングで親と会話しながらやるという、何とも不思議な事になっている。

今日も昼には夜久君寄るよ〜ってメールをしておいたから、きっと張り切ってご飯を作っているだろうと思っていたが・・・

なんで今日に限って誰もいないの!!!

慌ててメールを確認すると、少し前に届いていただろうメールが母からの「友達夫婦と飲んでくるね〜」という不在を知らせるもので、家に入るまでに気付かなかった自分を責めた。母もせめて部活終了までに送っておいてくれたらっ!!

昼間の友人との会話が脳内を駆け巡る。
決して2人きりとわかってて誘ったわけじゃないと自分の妄想を追い払い、何事もなかったように笑顔を貼り付けて夜久君へ振り返る。


「なんか夫婦で飲みにでちゃったみたい・・・ご飯は二人分用意してあるって」
「え・・・おばさん達いないのにあがっていいのか?」


普通の反応はそうだよね。母も夜久君を信用しているというか何も考えてないというか…兎にも角にも夕飯は二人分用意されているわけだし、一人で食べるのも寂しすぎる。今日は早めに切り上げようねと話し、何となくぎこちないまま先に夕飯をいただくことにした。

意識するな、意識するな
自分に言い聞かせるように心で呟くほど、変に緊張してしまいそうだ。そう思っていたのに人間の脳というのは本当に簡単にできている。
空腹が満たされると共になんだかほっこりした気分になり、互いに先ほどまでのぎくしゃくした空気を忘れ去っていた。


「じゃ、腹いっぱいになったし眠くなる前にやるか」
「ははっそうだね。今日は確か古典と英語と歴史と‥って、調べものばっかだね」
「マジで?!うわ、辞書とか忘れた」


家で一人でやろうとしなくてよかった〜って安心する夜久君は、どうやら辞書とかは学校に置いたままになっているようだ。
男の子ってそうしてる人が多いから先生たちも意地悪なプリント作るんだろうな〜。


「私いる時だけ持って行く派だから部屋にあってよかったね」
「おう、悪いけど貸して」


葵がいてくれて助かりますと、最近呼び始めた下の名前で呼ばれ心臓がドキっと音を立てた。
私も衛輔くんって呼ぼうと努力はしてるんだけど、なんだか気恥ずかしくていつも呼ぶのを躊躇ってしまうが、夜久君はさらりと呼んでくれる。

そういうところもカッコよくてずるい。なんて思って、照れ隠しのように慌てて話を戻したから深く考えていなかった。


「辞書とか上にあるし、今日は私の部屋でやろうか」


そう言ってから、驚いたように目を見開く夜久君を見て自分の失言に気が付いた。そう、自ら2人きりの部屋に誘ったという事実を。

忘れていたはずの緊張が再びやってきて私の鼓動を早くしていく。
何とか夜久君にばれない様にと、顔を見ないで足早に部屋へと案内する私の後ろで、夜久君が人知れず気合を入れていたなんて気づきもしないで。私は、一瞬驚いた顔をしたもののその後はいつも通りな夜久君に安心すると共に、すこし残念な気持ちと、気にしないようにしていた不安がムクムクと育っていた。

あれ・・・もしかして私、あんまり女の子として魅力ないのかな

部屋へと入ってもらって「女の子って部屋だね」と笑う夜久君にリビングよりはだいぶ小さいテーブルの横に腰を下ろしてもらっても、何事もないように勉強道具を広げだす。彼女の部屋で2人きりになった彼氏ってこんなにも普通なのかな。

なんだか意識しているのが自分だけなのかと恥ずかしくなり、急いで辞書を取って座ろうと振り返った拍子に慌てすぎて机の脚で小指を強打してしまった。声にならない声を上げてしゃがみこんだ私に、苦笑いを浮かべながら大丈夫かと足を覗き込んでくれる夜久君の顔が近くてビクッと一瞬体を反らしてしまう。
私、テンパりすぎ


「大丈夫、何もしないから」
「・・・え?」


言われたセリフが理解できなくて、小指の痛みなど忘れて夜久君をまじまじと見返してしまう。どこかバツが悪そうに頬をかきながら「まぁこの状況だしな」って独り言の様なセリフを呟いた後、優しく微笑む夜久君の笑顔がちょっとだけ寂しく見えた。


「葵が嫌がる事は絶対にしない。もう前みたいに急にキスしたりもしないから」


だから心配するなってポンと私の頭に手を置く夜久君。


「それは・・・私が嫌じゃないって言ったらいいの?」


それはほぼ無意識に出た言葉だったけど。
でもなぜだか言わないといけない気がして。


「無理しなくていいよ。俺はいくらでも待つから」


俺たちらしく2人で一緒に慣れてこって、前にも話したセリフを繰り返す夜久君。
確かに、焦らないでゆっくり行こうって言った。だから夜久君はずっと何もしてこなかったのかな。
私がアイツにフラれた理由も知ってるから

そう思ったら一人でモヤモヤしたり焦ったりしてたのが馬鹿みたいに思えてくる。

私が言わないから伝わらないんだ。
私が言わないから夜久君はあんなに悲しそうに笑うんだ。
私が言わないから、進まないんだ。

 自分から動かなきゃ何も変わらないよ

昼間の友人の言葉がフラッシュバックされる。


「無理なんかじゃない・・・。私、夜久君と・・衛輔君ともっといっぱい・・触れていたいよ」


前に進むためならと思ったが、これを言ったらどうなるかなんて考える余裕なんかなかった。
ただ、私のすぐそばで動きを止めた夜久君をじっと見つめ返した。


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*注* 次の話は性描写を含みますので、注意喚起としてパスワード入力になります。




こんなに前置きするつもりなかったんだけどなぁ・・。
やっと実った恋を大事に大事にしてきた夜久君。
彼女からのアプローチで男に・・っ!!!
次は夜久君視点で書くぞ♪終わるかなww



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