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あの日の君が 02

日差しのまぶしさで目を覚ましたのは、とっくにお日様が登った午前10時。


「・・・・サボっちゃった」


真っ赤な目のまま帰宅し、夕飯も食べずに部屋に引きこもった私をみて朝起こさずに寝かせてくれた親に感謝。
病気でもないのに休んだのはこれが初めて。今頃みんなは学校で授業中なのかと思うとなんだか複雑な気分だ。

泣き過ぎたせいで乾ききっている喉を潤す為、気怠さで重たい体を無理やり起こしてリビングへと向かう。冷蔵庫の中の牛乳を並々コップに注ぎ一気に飲み干せば全身に染み渡るのがわかった。

少しすっきりとしてやっと動き出した頭で思い出すのはやっぱり昨日の事。アイツの事。
もっと引きずると思っていた失恋は、昨日さんざん泣いたせいか妙にすっきりしている。

あんなに好きで、アイツに会えるから毎日学校に行って。告白してOKもらえてつい最近まで舞い上がってたのにな。一緒にいる時はあんな奴だなんてまったく気付かなかった。恋は盲目ってやつなのかな。
もちろん楽しかった思い出もたくさんある。
クリスマスもバレンタインも一緒に過ごした。手をつないで帰ったり、デートだって沢山した。キスだってした

今はもう思い返してみても苦しいけど涙は出てこない。やっぱりちゃんと泣いたのがよかったのかな。
部屋に戻ってベッド脇に置いてあるタオルをそっと手に取る。


「君のおかげだね」


なんてタオルに向かって話しかけて一人で笑ってしまった。
夜久くんが貸してくれた涙が出るタオルにもう一度顔をうずめる。


「俺みたいにお前のこといいって言う奴もいるんだからあんま卑屈になんなよ」


別れ際に再度言われた夜久くんからの言葉が思い出され、涙じゃなく奇声が出そうになった。
最初に言われた時は慰めの為のお世辞だと思った。この人はどんだけ優しくて・・・残酷なんだと。でも夜久君はとっても真剣な顔をしていて


「べ、別に今返事がほしいとかじゃないから!」


言ってから慌てている姿に嘘はなさそうで


「高宮がちゃんと考えれるようになるまでいくらでも待つから」


とても優しい声で待つと言ってくれた。

夜久君とはこの4月で初めて同じクラスになったので、今までさほど接点はなかったはず。それなのになぜ。その疑問は昨日のうちには沸いてこなくて本人に聞くことはできなかった。

夜久君は私の何を見ていたのだろう。私が知っている限りではアイツに恋してる私しか夜久君は知らないはずなのに。いくら考えても私の記憶では思い当たる節などない。

しばらく考えているうちに私のお腹がお昼を告げる。そういえば夕飯も朝ごはんも食べれずにいた。昨日はしばらく食欲なんてわかないと思っていたのにな。
あの場に夜久君が居てくれたから絶望的にならずに済んでるのかも。こんな私でも大丈夫って言ってくれる人が居るから。

好きとかそんな恋愛感情じゃないけど。それでも本当に感謝しているから何かお礼をしたいと思ったが、生憎彼の事をほとんど知らない。
何が好きなのかとか甘いものが食べれるのかとか、全くと言っていいほど情報がない人へのお礼って何をあげたらいいのか。

部活行く途中だったって言っていたからタオル・・とも思ったが、タオルを借りておいてお礼にタオル渡すってのは無いだろう。かといって食べ物は好き嫌いがあるので博打になりかねないし。リストバンドとかは部活によっては使えない。せめて何部かだけでも聞いておけばよかった
とりあえずサクッとご飯を作って食べながら、一瞬弁当なんて思ったがこれこそ迷惑だろうな。

一向に考えがまとまらない頭は夜久君の事でいっぱいで、アイツの事を考えなくてすんでいることに気付いたのは美容院で髪を切ってから。
失恋=髪を切る、なんて定番すぎるけど。ロングヘア―が好きだと言っていたアイツの為に伸ばした髪とはさよならを告げた。周りにも軽く別れたんだよ〜って言える雰囲気を作る為にもバッサリと。


久しぶりに見るショートは、なんだか入学したての頃を思い出させた。
頭が軽くなったからか心も軽くなったような気がする。だからみんな失恋したら髪を切るのかな。街を歩きながら夜久君へのお礼を考えて歩く足取りも軽い。
まぁ結局考え抜いた末に思い浮かばなくて無難に目に留まったタンブラーにしてしまったが。

とりあえず粉のスポドリも何個かセットにして渡そう。
小さなメッセージカードにお礼と、すぐにはそんな気持ちになれなくてごめんなさいを書いて一緒にラッピングする。

これが今の私の正直な気持ち。
アイツとの恋にサヨナラしても次の恋を迎え入れれる日がいつになるかわからないから。そんな状態で待つと言ってくれた夜久君に甘える事なんてできない。

だから
ごめんなさい


翌日、教室の前で一度、深く深呼吸してから扉を開ける。


「おはよ〜」
「おはよ―葵!って休んで髪切ってたの?!」


いつも通りの挨拶に、すぐに友人たちが寄って来る。狙い通り、髪を切ったを一発でわかってもらえた。


「へへ、似合うでしょ」
「自分で言うなよー似合うけど。何々?失恋でもした?」


なーんてねと茶化す友人にあはは〜っと笑ってから「実はそうなの〜」と返せばすごい勢いでくいついてくる。


「いや〜フラれましたわ〜」


そう笑う私に何で何でと興味津々の友人たちに「聞いちゃう?」と軽く返してから「お昼のネタね」と自身の席へと向かう。
登校するのに緊張してしまってギリギリの時間だったからかすでに夜久君の姿があった。さっきの会話も聞こえちゃってたかな。

チャイムが鳴って慌てて皆が席へ戻る騒がしさに紛れ、こっそり夜久君の席へ行きタオルとプレゼントの入った紙袋を手渡す。


「よく泣けるタオルありがと。おかげで助かりました」
「・・おう。またいつでも言ってくれやー貸すよ」


だからあんま無理すんなよって小さく言ってくれる夜久君に力ない笑顔で返して席へ着く。
今は無理にでも笑っていないとダメなの。

確かにもう涙は出てこない
アイツとまた付き合いたいとか。まだ好きだとか。そんな気持ちはもうないけれど。でも、学校にはアイツとの思い出が多すぎて。

頑張らないと笑えないから
笑っていないと私じゃないから
だから無理にでも笑い続ける

そんな臆病な生き方しか私にはできないから。



夜久君がメッセージカードを見ているのが視界の端に映る。

一応、あの文だとフルことになるのかな?自分が今、教室に入る時よりドキドキしているのがわかる。
HRの先生の話なんて耳に入ってこない。ただ、あの文を読んだ夜久君に避けられることになるかしれない。そんな不安でいっぱいだった。


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人に弱さを見せるのって怖いよね。
さて、ごめんと言われた夜久君のその後の行動は・・?


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