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キミと、もう一度。 01


「あれ?黒尾くん?」
「んー?・・・葵ちゃんか?」
「そう!こんな所で会うなんて珍しいね」


休日の今日、家にいるのも暇だから適当にブラブラしてこようかな、と一人で出かけで色んなお店を見ながら歩き回っていた時。前からくる特徴的な髪型の人に見覚えがあって、不躾にもジッと見つめた後イマイチ確信が持てないながらも声を掛けた。

向こうも不思議そうにしていたが、自分の名前が出てきた事でホッと息を吐く。
いつも見かける時は制服かジャージ姿だったので、私服だと印象が変わって分からなかった。


「今日は部活もないし、お前の家に行く途中」
「あぁ、お姉ちゃん?」


コクリ、と頷く黒尾くんを見て納得する。

黒尾くんとお姉ちゃんは同じクラスで結構前から付き合っていて、私も偶に喋ったりする。
一つ上だから先輩にあたるけど、ずっと黒尾くんって呼んでいたせいで今更黒尾先輩って呼べないんだよね。でも、黒尾くんも別にいいって言ってくれてるからそれに甘えてる。


「2人でどこか出かけるの?」
「そのつもりだけど、どこ行くかまだ決めてないんだよなー」
「そっか」


まぁ、休みの日に出かける相手がいるだけ羨ましいと思うけど。
一人でブラブラしてる私にはちょっと堪えるよ。


「葵ちゃんは一人なの?」
「・・・そうだけど?」


ふーん。と意味ありげな笑みで返してくる黒尾くんにちょっとイラッとして、ギロリと下から睨みつける。何さ、自分がリア充だからって!


「あ、そういえばさ」


黒尾くんが何かを言いかけたその時、背後の方からガヤガヤと賑やかしい声が聞こえてきて後ろを振り返ると、遠目からでも分かる背が高い人達が・・・3人、楽しそうに声を上げていた。
背が高いだけでも目立つのに、騒いだらもっと人目を引くだろうなぁ・・・なんて思っていると、隣の黒尾くんが「ゲッ」と嫌そうな声を出した。


「知り合い?」
「・・・ちょっと隠れさせて」


いや、物理的に考えて無理だから。
私の背中に隠れようとしてる黒尾くんだけど、その大きな図体は隠しきれるワケがない。特徴的な頭だってバッチリ見えているだろう。


「おー!黒尾じゃーん!」


ホラ、ね。
背後の黒尾くんに向けていた視線を声を掛けてきた人達に移し、その面々を視界に捉えた瞬間、息を呑んだ。


「なんで梟谷の連中がココにいるんだよ」
「今日は部活オフだからさ。ヒマなヤツらでサポーターとか見に行くトコ」
「あー、最近出来たデカいとこな。近いけどまだ行ってねぇわ」
「黒尾も来ればいいじゃねーか!」
「遠慮しておきマス」


何だかんだ言いながらも楽しそうに会話している黒尾くん。その背後にさり気なく移動して身を隠す。少し見えただけだけど、間違いない。

クセのある黒髪。
精悍な顔立ち。
あまり感情が表に出ない彼だけど、ふとした時に優しく笑う顔が大好きだった。

ドキドキと脈打つ心臓を服の上からギュッと押さえて、動揺する心を落ち着かせようと深
く息を吐き出す。


「・・・葵?」


しかしそんな私の行動も虚しく、呆気なく彼に見つけられた。
すぐに距離は詰められて、近くに来た彼に落ち着くどころか更にざわめいてしまう。


「久しぶりだね、京治」


隣に立つ彼を見て、あぁ・・・あの頃よりも身長が伸びたな、とか。
顔立ちも幼さが抜けたな、とか。
忘れたつもりで全然忘れて無い事を思い知らされた。

背後では黒尾くんと京治の知り合いの人達がわいわいと話しているけれど、そちらを気にかけている余裕がないので、会話は私の耳を通り抜けていく。


「黒尾さんと知り合いなの?」
「うん。同じ学校だし…付き合ってるから」


お姉ちゃんと。
そう言わなかったのは見栄なのか意地なのか…期待、なのか。自分でもよく分からない。こんな事言ったって、京治は黒尾くんと知り合いみたいだから嘘だってすぐにバレるのに。


「ふーん…。黒尾さんからそんな話聞いた事無かったけど」
「さぁ?自分から話す事でもないからじゃない?」


事実、お姉ちゃんとは付き合って長いんだし。何かを探るような京治の視線に目をそらす。京治が今どう思っているかなんて分からないけど、私は一刻も早くこの場から逃げたかった。


「あーもー!俺はこれから彼女と出掛けるから無理なの!」
「え?!黒尾彼女いんのか?」
「男ばっかで出掛ける俺らとは違うってか。羨ましいなぁ、オイ」


その会話を聞いて、今がチャンスだとばかりに黒尾くんの腕を引っ張る。


「ねぇ、そろそろ行こうよ」
「え?おぉ…。じゃあ俺行くわ」
「おー!またな」


背中に京治の視線が刺さっているような気がしたけど、絶対に振り向く事はしなかった。ここをやり過ごせばきっともう会う事だってないだろう。


「もう帰っても良かったのか?」
「うん。黒尾くん困ってたみたいだったしね」
「そうか?」


実際に困っていたのは私なんだけど。
聡い黒尾くんの事だから、ここで京治について何か言おうものなら感づかれる可能性がある。


「さっきの人達、知り合いなの?」


だから無難な質問を投げかけた。


「梟谷のバレー部の奴らだよ。一番ウルセーのが木兎ってヤツで、金髪なのが木葉。もう一人が赤葦って名前で、赤葦は葵ちゃんと同い年だぜ?」
「そうなんだ・・・」


知ってる。
きっと黒尾くんより知ってるよ。

大好きで・・・大好きだったのに、私から手を離した。
赤葦京治は、私の・・・元彼、なのだから。

一年以上かかって、やっと気持ちに整理が出来たのに。
気持ちが引き戻されるのは一瞬だった。

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