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ぜんぶ先輩が教えて 番外編

先輩と付き合ってからもう三ヶ月近くが経った。

その間に男子バレー部のインハイ県予選などが行われたけれど、結果は惜しくも敗退。けど、先輩たちは引退を選ばずに春高を目指す事を決め、練習漬けの毎日は変わらなかった。
先輩は部活、私はバイトという変わらないルーティンだけど毎日楽しいし、不満なんてこれっぽっちもない。もちろん、ケンカも一度たりともした事がない。

月曜日にはデートしたりして少しずつ距離も縮まり、隣を歩くのに違和感もなくなって「タカくん」と呼ぶのにも漸く慣れた。
そして土曜日の今日、珍しくバイトが休みだった私は第三体育館へと足を運ぶ。先輩も今日は早く部活が終わるから、折角だしどこか行こうって誘ってもらえたんだよね。

コッソリと扉から中を覗くと、丁度終わったような雰囲気だった。今日は私服だったせいで見学する訳にもいかず、先輩から聞いていた終わる時間に来てみたけど・・・やっぱり先輩がバレーしてる姿、ちょっとだけでも見たかったなぁ。

せめてこのまま眺めていたいけど、私服だし体勢的にも怪しい事間違いない。
残念な気持ちになり、溜息を吐きつつ「正門のところで待ってます」そうメッセージを送って、後ろ髪を引かれながらも体育館を後にした。


影になっているところで、スマホを操作しながら先輩を待つ。
ただ待っているだけだと時間の流れが遅くて時計ばかり気にしちゃうから、ゲームをしたりSNSを見たり、気を紛らわせるようにしているんだよね。そうして暫く時間を潰していた時、待ち望んでいた声が背後から掛かった。


「葵、お待たせ」
「タカくん、お疲れ様っ!」


その瞬間、もうスマホには目もくれずに笑みを浮かべて振り向く。だけど、振り向いた先に見えた先輩の表情と、ニンマリとした笑みを浮かべた及川先輩が視界に入り、自分の失態に気付いた。


「いいけど、他のヤツの前で呼ばないでね。恥ずかしいから」と照れたように言った先輩が脳裏に浮かぶ。
確かにからかわれたりするのは嫌だろうな。と思って、タカくんと呼ぶのは二人きりの時だけにしていた。なのに今、目の前には先輩だけじゃなく、及川先輩、松川先輩、岩泉先輩の姿。


「ちょっと皆聞いた?マッキーがリア充なんだけど!」
「いや、リア充じゃないのって及川だけだぞ」
「えっ!?それ言う?それ言っちゃう??」
「ちょっと黙れクソ川。本当の事だろーが」
「岩ちゃん酷いっ!及川さんの傷口抉らないで!」


からかう気満々みたいだった及川先輩なのに、逆に皆から色々言われてシュンとしてしまっている。先輩と付き合う前までは、こういうやり取りも遠くから眺めていただけだったから何を言い合っているかまでは分からなくて、その度に友達と想像して盛り上がっていたけど。
実際にこうして目の前で見ると、想像よりも和気藹々としていてとても面白かった。


「じゃあ俺ら帰るわ。また明日な」
「おー、またな」
「お疲れさん」
「マッキー、程々にね〜!」


他の先輩達に軽く頭を下げてから行こうとしたけど、及川先輩が言い放った言葉に首を傾げる。瞬時に岩泉先輩が「お前は余計な事言うな!」と及川先輩を蹴っていたから余計に疑問に思って、先輩にどういう意味なのか聞こうとその顔を仰いだ。
でも、私と目を合わせようとはせずに腕をグイグイと引いてその場から離れさせようとするから、何となく聞いちゃダメなのかな?と思って口を閉ざした。

先急いでいた様子の先輩も、皆から離れると歩調はゆっくりとしたものに変わって、腕を掴んでいた手は私の手を優しく包み込んでくれる。


「タカくん、さっきはごめんなさい」
「ん?何が?」
「皆の前でタカくんって呼んじゃったから」


怒っているような雰囲気では無かったけど、約束は約束。破ってしまった事を謝った。


「気にすんなって。いつかはバレると思ってたし…逆に今までありがとな。これからは気にせずに呼んでくれていいから」
「…そうなんですか?」
「葵にそうやって呼ばれるの結構慣れたし?ってか、また敬語になってる」
「あ、ホントだ」


ふはっ、と同じタイミングで笑い合う。
こうして穏やかな空気のまま、先輩の家に着いた。流石にジャージで出掛ける訳には行かないから、一度着替えに帰りたいっていう尤もな理由だ。


「悪い、シャワーだけ浴びていい?速攻で出てくるから」
「うん、もちろん」
「ちょっと待っててな」


先輩の部屋に1人残されると、以前この部屋に来た時の事を思い出してしまう。
先輩の部屋に来るのはこれが二回目。あれから何度もキスはしてるけど、この部屋で交わしたようなキスはあれっきりしていない。

私にとって付き合うのは先輩が初めてだから、きっと私のペースに合わせてくれてるんだろうと思うし、大事にしてくれるのは凄く嬉しいけど…。最近は、もうちょっと先輩に触れてほしいと思う時がある。この前みたいなキスもまたして欲しい。…そう思うのは変、なんだろうか。


「お待たせー」
「早かったね…、っ!」


色々考えて熱くなってきた頬を押さえていたら、思っていたよりも早く先輩が戻ってきてそちらへ視線を移す。が、その格好が目に入った瞬間、驚いて言葉が詰まった。
ちょっと待って…!乱雑に髪の毛を拭いている先輩は上半身に何も纏っていなくて、普段隠れている素肌が露わになっている。


「シャツ忘れたー」


軽くそう言いながらゴソゴソと漁る先輩を直視出来ず、結局シャツを着てくれるまで必死で視線をを逸らし続けた。


「あれ?どした?」
「いや、何でも…。もう行きますか?」
「おー。でもその前にちょっとだけ、ハイ」


ニッコリと笑いながら腕を広げて立っている先輩に、どう応えればいいのかわからなくて首を捻る。


「出掛けちゃうとこういうコト出来ないからネ。ほら、おいで」


大好きな人にそんな台詞を優しく言われたら行かないわけにいかないじゃないか。
吸い寄せられるように先輩の腕の中へ行き、そっと背中に手を回すと、ギュッと力が込められた。

身長差からすっぽりと包み込まれるように抱きしめられ、ふわっとボディソープの香りが鼻腔を擽る。この温もりに安心するし、ドキドキもする。
忙しく血液を送り出す心臓の音が聞こえないかと思うけど、こうするのも久しぶりだから浸っていたい。


「葵、こっち向いて」
「ん…」


先輩の声に導かれて上を向くと、予想通り落ちてきた唇は、その感触を確かめるように何度か啄む。時折音を立てながら重なり、暫くすると舌が入ってきた。
あの時以来の深いキス。嬉しいのに、やっぱり恥ずかしくて少し戸惑う。

いつの間にか背中に回していた手は先輩のシャツをキュッと掴んでしまっていたけど、それに気付かないくらい必死に応えた。

呼吸は乱されて、段々と何も考えられなくなってきた時。先輩の舌に上顎をなぞられて「んっ…」と自分でも聞いたことのない声が漏れた瞬間、勢いよく身体が離された。


「さて、そろそろ出掛けますか」
「え…、」


予想だにしなかった言葉に思わず疑問の声を上げる。
強制的に引き上げられた感覚は中途半端に燻ったままだ。この状態で出掛けるなんて…。


「折角可愛くしてきてくれたのに、出掛けられなくなっちゃうデショ」
「…でも、何か…変なの」


キスのせいで身体は熱くなって、お腹の奥がキュンとする…変な感覚。
もっと…って思ってしまう気持ち。

どう伝えていいか分からなくて、ただ先輩を見つめる事しか出来なかった。
それでも、先輩は察してくれたのか酷く真面目な表情になり、


「俺、マジでこれ以上したら止まれる自信ないけど…いいの?」


そう問いかけてくる。
けど、そんなの私が返す言葉なんて1つしかない。


「うん…いいよ」


期待と不安を隠すように、もう一度先輩との距離をゼロにした。


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*注* 次の話は性描写を含みますので、注意喚起としてパスワード入力になります。




本編が不完全燃焼だったので番外編をちょこっとだけ・・・。
タイトルがタイトルなので、全部かかないとアレだよなぁって思ってしまいました。

一話で終わらせようと思ったんです!思ったんですが…すみません、続きます。
はじめてを花巻に捧げてもOKの方は次へどうぞ。


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