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嘘から始めた真実 01

話せば長くなるのだが、いま私は漫画でありそうな偽りの恋人というのをしている。
事の原因自体私だし、この関係を付き合わせている側なのだが…私の方が気後れしているのはなぜだろうか。

ちらりと隣にいる彼を盗み見る。この見た目草食系のくせに、自分の意思をしっかり持っていて、男らしい発言をする彼

孤爪研磨はいったい何を思っているのだろうか。

いきなり「付き合ってる」発言をされたにもかかわらず、別にいいよとこの関係を演じてくれてるのは器がデカいのか、あまり深く考えてないのか。今日も今日とてお決まりとなりつつある階段で、2人並んでスマホオンラインゲームをやりまくる。

これが日常になって早1ヶ月。
偽りの恋人になったのが昨日。

このおかしな関係が始まったのは本当に偶然だった。



「あ、ごめん。顧問に呼ばれてるからちょっと行ってくるね」


仲良しグループで昼食を済ませた私は、ポケットにこっそりスマホを忍ばせ席を立った。
3年の初夏ともなれば「もうすぐ引退だからね〜」の一言で部長である私が呼ばれることに誰も疑問を持たない。いつも通り軽く手を振り職員室へと続く廊下へと向かう。

だがその扉を開けるわけではない。そのまま職員室を素通りし、普段全く使われていない空き教室へと続く階段を上り、中腹で腰を据えた。

周りに人影は無い。それどころか足音や話し声も無く、かなり静まり返ったこの空間は私のお気に入りの場所なのだ。


「さ〜て、時間無いしやりますかね」


スマホを取り出し、慣れた手つきでアプリを起動させる。開いたのは今人気のオンラインRPGゲームだ。


『葵ってゲームとかやらなさそうだよねー』


中学の時だったか、誰かにそう言われた。周りにいた子も賛同してゲームやってるとオタクっぽいよね〜なんて話になり、なんとなく大好きですと言いづらくなったのがきっかけだったか。人前でゲームをすることをやめた。

愛想も良く先生からのウケもいい、いかにもいい子です!って感じの見た目のせいもあるが、誰も私がゲームオタクだと気付くことなく今に至る。

それでもオンラインゲームなんかでイベント日になるとどうしてもやりたくなるので、こうやって人目を忍んで勤しんでいるのだ。
隠さなくてもいいのにと言われてしまえばそうなのだが、もうコレが習慣づいてしまって賑やかな所でやるっというのが落ち着かなくなってしまった。


誰に指図されることもなく自由気ままにできる。今のこの隠れゲーマーの環境をそれなりに気に入っているってことかな。目的のイベントへとアクセスし、黙々とイベントに励む。

1週間限定のイベントなのに、コレでしか手に入れれないレア度超SSSクラスのアイテムがあるのだ。
残り3日。毎日かなりの時間を費やしているのに全くドロップしないこのアイテム。おかげで昼休みにまで頑張ってしまうはめになったではないか。

自分で言うのもなんだが、私はこのゲーム界ではかなり上級者の部類に入る。私のキャラはこのゲームをよくやる人なら大概知っているくらい有名だ。ま、それだけやり込んでるってことだけどね。

もちろん学生なので無課金。無課金で課金している人に打ち勝つってのが何とも言えない優越感に浸れるのだ。そんな私ですら未だ入手できないとか…このアイテム、誰か手に入れたんだろうか
残り5分で予鈴が鳴ってしまう。帰るまでお預けかと諦めかけていたその時、いつもの違う光を放つ画面に釘付けになる。

この光はまさか・・っ!


「来た―!!!ザイテンクラート――!!!」


あまりの嬉しさにその場で立ち上がって叫んでしまった。もちろんさほどバカでかい声ではない。ただ、静かな廊下ってのは響くよね。


「・・・・ねぇ」


ココより上は今は使われていない教室しかないので油断していた。まさか上から人が下りて来るとは想定外。
スマホを持って立ち上がってガッツポーズしていれば、叫んだのが私だと一目瞭然だ。

ギギギという効果音がしそうなほど、固まったまま後ろを振り返る。目に飛び込んできたのは見事なプリン頭。やばい!!ヤンキー!?校則が緩いので染めている子なんて沢山いるが、これまた見事なプリン具合に驚く。

どうしよ!!ウルセーとか因縁付けられる!?もしくはゲーマーだと言いふらされる!?止めて下さいとか言ったらカツアゲされるとか!?脳内をめぐる展開にサーっと血の気が引くのがわかる。
しかし、目の前の彼はしばらくしても私が想像するような威嚇はしてこない。それどころかちょっと目が泳ぎ気味で視線をそらされ、おどおどとした様子だ。なんだどうした。声を掛けてきたのはそっちだろ?!

もはや意味の解らない状況に首を傾げた瞬間、手に持っていたスマホの画面を押してしまった。


「ぬわー!!ちょ!消して無いよね!?」


今までの苦労が水の泡とかしてしまったかと慌てて画面を確認する。幸いアイテムを誤って消すなんてことはしていなかった。寿命が縮まるかと思ったよ。


「ねぇ・・それって‥これ?」


今の出来事で一瞬にして存在を忘れていたプリンくん。気が付いたら目の前で自分のスマホ画面を見せてきていた。
しかも、今まさに私がやっていたやつ


「・・・アナタモヤラレルンデスネ」
「今のアイテム見せて」


なぜか片言になってしまう私を全く気にすることなくプリンくんは私のスマホをのぞき込む。もちろん先程のアイテムを確認した所なので持ち物一覧みたいな画面だ。


「うわ、すごい。…やっぱ使えるヤツか」


あの〜、私はまだイイなんて言ってないんですがとは言いだす暇もなく、彼は自分のスマホをいじりだす。勝手に見えてしまう視界には先程まで苦戦していたイベント画面が映っている。


「ねぇ、どうしたらドロするの?」


この人、全く目は合わせて来ない癖に自分のしたい事には積極的だなぁ。
それでも自分がはまっているゲームをしている人って思うと好感が持てちゃう辺りゲーマーだなー私。


「とりあえずコイツとコイツをセットで連れて行くとドロしやすいらしい…って!?ケンマー!?」


何気なく見たプレイヤー名に再度声を上げてしまい、慌てて手で口を押える。
だが仕方ないのだよ!ケンマーと言えばこのゲームだけでなく、色んなオンラインゲーム内においてトップクラスのプレーヤーだ。一部でスゴイ噂になっている有名人。


「…知ってるんだ」


少し照れたようにうつむく彼。
想像していたケンマーとはだいぶ違うが、そんな姿が可愛いと思ってしまった。


「ケンマーと言えばゲーム界全体で有名ですから。お会いできて光栄です」
「そんな大層なもんじゃない…ただ好きなだけ。あんたは?」


そう言って再び私のスマホをのぞき込み発した彼の一言。


「え・・・神じゃん」


神って何ですか!?いや、確かに名前にゴットマザーなんて付けてるけど。
これはよく父が飲むと話していたカクテルで、響きがカッコいいから使っているだけで、けしてマフィアの姐さんなわけではないです。まして神なんて恐れ多い。

なんとか神なんて大それた者じゃないと言おうと顔を上げると、今まで合わせられることのなかった彼の瞳がこちらを向いていた。しかも、ビックリするほどキラキラと何か尊敬のまなざしで。

その目があまりにもキレイで力強くて、私はその場から動けなくなっていた。


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猫ちゃん始めました!
思ってたよりも書きやすいのはなぜだろうww
似てないからかな!笑)
長くなる予感です


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